今年も見事な梅雨空のなか、事務所の玄関に七夕の竹が飾られている。
毎年戸畑が事務所でも季節の色どりがあれば気分も違うだろうと飾っているが、今年はずいぶんと短冊が多く飾られているように見える。
「おはようございます」
短冊を吊るしていた戸畑に「今年も立派なもんだな」と声をかける。
「あるとないとじゃ多少気分も違いますしね。小倉さんもどうですか、短冊」
「短冊なぁ」
わざわざ天のお星さんに祈るような願い後事も特段思い付かず、小さくあごをかく。
職員たちのように恋人だの給料だのを祈っても届くはずがないことも分かっているので余計にだ。
「気が向いたらでいいですよ」
「じゃあ気が向いたら、な」
今日の目的は本部事務所内でのオンライン会議だ。そっちがまずは優先である。
会議が終わったら戸畑と飯に行ってもいいかもしれない。そんなことを考えながら慣れた足取りでいつもの会議室へと赴いた。
-数時間後
会議が終わって玄関へ戻る途中、短冊の詰まった箱が目についた。
行きがけに目についた七夕飾りに何か書かないかと戸畑に言われたことを思い出し、ふとあることを思いついた。
数枚の短冊をもらっていつものペンでいくつかの願い事を書き込むと「小倉さん」と声がかかる。
「この後お昼どうですか、いいうどん屋さん見つけたんです」
「……戸畑って粉もん好きだよな。まあいいか、俺も行く」
「あ、短冊書いたんですね」
「これ飾ってからでいいか?」
「もちろん」
最初の短冊にはコロナの早期終息を祈った短冊は見えやすいところに。
二枚目の短冊には景気回復と業界の好景気の到来を祈る短冊は数の少ないところに。
そして最後の短冊は、一番高くて空からよく見える場所に。
「なんでそれだけ一番上に?」
「神様によく届くように、だな」
最後の短冊は俺の周りにいる奴ら(八幡を除く)の幸福を祈る短冊だ。
あれこそが一番の願いであり、届いて欲しい祈りなのだ。
「そういや今日行くうどん屋は何が旨いんだ?」
「肉うどんがいいんですよね、小倉さんお好きじゃないですか」
この娘の幸いはどこにあるのか。それは天の星に祈るしかない。
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小倉と戸畑