日に日に暖かくなる日差しに春の近づきを感じながら、鞄に押し込めた書類を渡す相手を探しに行くと「今日はまだ来てないみたいです」と職員に告げられた。
「あの戸畑が?」
「今日は正午で上がられましたから寮にいるかもしれません」
なら寮に行って渡しておくかと足を向ける。
会社の寮で一階の日当たりのいい角部屋はたいてい俺のような付喪神の類に当てられることが多いが、戸畑のところもそれは同じらしく部屋はすぐに見つけられた。
「戸畑ぁ、」
ピンポンを鳴らしながらその名を呼べども反応はない。
鍵は閉まっているし、ポストは寮の住人共同で使っているからうっかり見られるのも少々困る。
仕方がないと寮のベランダの方に回り込むと戸畑の部屋の窓は空いていた。
いちおう人に見られていないことを確認してひょいとベランダを乗り越えると、戸畑は座布団を枕にすやすやと昼寝をしていた。
仕事終わりで疲れていて、日当たりと初春の風につい眠ってしまったという事か。
(……邪魔しない方がええな)
靴を脱いで戸畑の部屋に上がり込むと預かっていた書類とそれについてのメモ書きを置いておく。
よく眠る戸畑に近づいて薄い毛布を掛けてやれば、うちで預かっていた頃の和歌山を思い出させるような安らかで無邪気な寝顔をしている。
悪い子どもじゃあないのだ、せいぜい安らかに寝させてやろうじゃないか。
そうしてそっと戸畑の部屋を抜け出すと春の風と日差しが心地よい。
もうこのまま仕事を上がって一眠りしてしまおうか、という気分だ。
戸畑と小倉。この二人の関係性って何なんだろう、と考えてたらこうなった。