*新年号出たねって言う小ネタです
*八幡さんと千葉くんと神戸さん
「新年号、令和ですか……」
八幡さんがテレビを見ながらつぶやいた。
新年号と新年度に向けた会議の手を止めて新年号を確認すると、隣にいた神戸さんが「大変そうねえ」と呟いた。
「新社名に新年号、あとこの会議が終わったら山陽特殊鋼に挨拶してオバコにも連絡入れて……あと何がありましたっけね……」
「ここまで被ると大変でしょ?」
「ホントですよ」
神戸さんはからかい交じりにそう言うけれど、むしろ俺は前の改元の時よりお祭り騒ぎなこの感じが結構楽しく思える。
「俺は結構楽しみですよ、新しい時代」
「若い子はいいですよね呑気で、とりあえず会議の続きやりますよ」
テレビの電源を落とした八幡さんは再び僕らの方を向いて会議を始めるのだった。
・呉さんと周南ちゃん
社名変更に伴うバタバタは変更当日になっても中々収まらず、小さくため息を漏らすと周南が「お疲れ様」と言いながらビニール袋を持ってきた。
「残り物のごはんでおにぎり作って来たよ」
「助かります」
ボトルのお茶とおにぎりを受け取ると「書類仕事やるより現場仕事の方が落ち着くよねえ」と周南が言うので、小さく頷いた。
おにぎりの中身は昨晩の残りのから揚げと七味マヨネーズというがっつり目の仕様だ。
「ああそうだ、新年号確認しといたよ。令和だって。それで桜島と次屋が役場向けの方のシステム改修に入ったから」
「桜島さんにもバタバタして貰ってしまいましたね、お礼言っといてください」
「分かった、落ち着いたら海でも行こうね」
「……はい」
僕らのブルーオーシャンを巡る旅は新年号の知らせと共に終わってしまったけれど、それでも日々は続いていく。
周南のいる日々も続いていく。
二個目のおにぎりを取りながらパソコンに向かい合った。
・加古川ちゃんと西宮さん
「こんなに賑やかな改元は初めてね」
西宮さんが苦笑いをしながら改元を知らせる大画面に目を向けていた。
近くの人からも新元号の話が飛び交い、三宮の街は新年号の話で持ちきりだ。
「そうですね、私改元は二度目ですけど」
「昭和のときも平成のときも似たようなものだったわよ」
「そうなんですね」
「なんかまた正月が来たみたい」
西宮さんのその評価は確かにしっくりくる。
「でも帰ったらまた改元絡みの仕事が積もってるんでしょうね」
「正月だってそうでしょ?」
新時代に向けて用事が終わったら、また仕事と言う日常に戻るのだ。
・広畑さんと釜石
「……た、広畑!」
声を張り上げた名古屋に起こされて起き上がると周囲がバタバタと走り回っているのに気づく。
ここが丸の内の本社であることに気付き、そう言えば一昨日から新社名や改元なんやでずっと丸の内にいたことを思い出した。
「釜石?」
「新元号出たぞ。令和だ、命令の令に平和の和。それで役場向けのプログラム改修始めるぞ」
むくりと起き上がるとパソコンスリープになっていたので再び立ち上げ直す。
何度目かの改元だけれど今回もやっぱりバタバタした改元ですっかり嫌になる。1年前に公表してくれればこんなに仕事しなくて済んだのに。
「お前さんもほんとは見たかったんじゃないのか、保育園」
釜石の言う保育園は今日から新しく出来る社内保育所のことだろう。
「高炉持ちが現場離れられないからしょうがないし……」
「そうだなぁ」
春うららかな空がふと視界に入るけれど、空模様とは逆に多忙な仕事に小さくため息を吐いた。