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コーギーとお昼寝

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桜雨の降る夜に

夜風に桜の花びらがひらりと舞うのが見えた。
己の名そのものである植物は春を鮮やかに彩るが、すぐに散っていくそのさまはなんとも寂しいものである。
「やあ、桜島のねーさん」
「……此花」
同じ町に住み同じ植物の名を冠した彼女はコンビニの袋を手にひらりと手を振った。
がさがさと袋を揺らしながら隣に近寄った彼女は「夜桜見物?」と聞いてきた。
「まあ、そんなところだ」
「ふうん」
「此花は」
「私はただ酒と食料の買い出しがてら散歩にね」
「そうか」
特に話すこともなくただ隣に立って道を往く。
工業地帯にほど近い住宅地の中の公園は喧騒から遠く、夜の風のみが静かに吹き渡る。
お互い何かを問う事はしなかった。
きっと問うてしまえば同じ男への恨み言が口をついてしまう気がして、それはこの美しい宵に聞かせるにはあまりに薄汚いものであるからだった。
「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない……だっけ」
「フィリップ・マーロウか」
「それだ。タフで優しくなくてはいけないって、しんどいと思わない?」
彼女のその言葉は遠回しな弱音だった。
兄弟たちの前ではそうあろうとする女のささやかな同意を求めるその言葉に、私は小さく頷いた。
「そうか」
それは良かったというように微かに表情を緩める。
「私もどれだけ素晴らしい存在であろうととしても御仏の前では弱い存在にすぎない、それでもいいと言ってくれるのが仏だと私は思っている」
弱くもろいものであろうとも、この命が絶えるその日まで生きて行かねばならぬ。
それは何度春を迎えて花を咲かせようとも夜風に吹かれてその命を散らす桜のように。




桜島と此花。虚しさも苦しさも全部胸の内に飲み込んで生きるという事。

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