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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

偶像は涙腺を持たない

『代わりに様子見てきてよ』という電話と一緒に電子マネーを送金されたので、休日だというのに車を走らせている。
目的地は鹿島の暮らす社宅の一室。
(此花も甘いよなあ……あいつがミスったからってどん底に落ち込むタイプには見えねえけど)
鹿島が昨日大きな事故を起こして落ち込んでそう、という心配は分かるが俺と違ってすっぱり切り替えてそうな気がする。
まあ落ち込んでいないわけではないだろうし、今頃事故の原因究明に必至だろうから陣中見舞いという事にしよう。
少し前に飲みたいと言っていたスタバの新作フラペチーノを片手に事務所の扉を叩く。
「あ、君津さんご安全に。どうかなさいましたか?」
「鹿島の陣中見舞いに来たんだけど」
「今日ちょっと調子悪いらしくて自宅のほうにいるみたいです」
「わかった、あいつの家行ってみるわ」
事務所から車で10分。
社宅にある鹿島の部屋のチャイムを鳴らすとゆっくりと鹿島が現れた。
「元気そうだな」
「落ち込んでいらんないからね」
鹿島の足首には包帯が巻かれており、どうやら影響が足のほうに出てるらしい。
(災害や事故とかで設備が壊れると体に不具合出るのめんどくせえよな)
自分も身に覚えがある体の不具合にほんの少し同情しつつ陣中見舞いのフラペチーノを渡す。
「あ、これスタバの新作じゃん!ありがとね」
「それと此花が心配してたぞ、電話で代わりに俺に様子見に行ってくれって頼んできたし」
「……大丈夫だよ、今の俺はみんなに愛される最高の俺だもん」
鹿島はフラペチーノを手に笑うが、その笑顔には僅かな無理を感じた。
昔の自分は愛されていなかったとでも言うようなニュアンスに違和感を抱きつつも、そこを突っ込むのは無粋なように思えてあえて口にはしなかった。
「しばらくは事務所行くのもしんどいから連絡あるときはオンラインでお願いできる?」
「分かった、千葉にも言っとくわ」
「ごめん、俺仕事の続きあるから戻らなきゃ」
「じゃあまた今度な、足大事にしろよ」
立ち話を遮るように扉が閉まる。
確かに今日はいつもよりも気が弱っている気がするが、そこに俺が立ち入っていいのかも分からない。
車の扉を開ければまだ冷房の冷気が残っていて、話していた時間の短さを感じさせた。
自分の分にと買った檸檬のフラペチーノはやけにすっぱかった。

****

君津は優しいなあ、とフラペチーノを片手に思う。
甘味の奥にレモンの酸味が効いたそれを飲みながら仕事用PCを流し見る。
(……別にこの事故で俺が死ぬなんてことはないだろうけどさ?)
幼少期から刷り込まれた愛されないという不安と恐怖はこういう時になると首をもたげてくる。
胸の奥に秘かに残る不安と恐怖と愛されるための努力で埋めてきたけど、こういう時はどうも駄目だ。
「心底愛されてみたいなあ」
そんな独り言は梅雨の晴れ間に空に吸われていった。


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君津と鹿島の話。

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さよなら銀河鉄道

もう夜だというのに遠くから汽笛の音がした。
「何の音だ?」
「SL銀河じゃないですか?きょうラストランらしいですよ」
従業員が何度か見たことのある観光列車の名前を挙げた。
確かにSLは時折見かけていたが今日が最後なのだと言われるとちょっと寂しく思える。
「SLがなくなったと思ったら最近は観光用で持て囃されて、時代の変化の速さにびっくりするな」
「釜石さんはSLしかない時代からここにいる訳ですもんね」
「物の移り変わりは早いな。
ただ、同時に不便だと言って捨てたもんをまた拾い上げたりするから人間ってのは不思議だよな」
一度は主役の座から降ろされたSLが観光用と言う名目で復活し、またここを去っていく。
それは人間のエゴであるがそのエゴによって生まれて生かされているのも事実。
「その拾い上げる行為もまた愛ってやつだと思いますよ」
思い返せば自分もまた人間の愛で瀕死の淵から拾い上げられ、こうして生きてきた身の上だ。
それを愛と呼ぶのなら自分は確かに愛に生かされている。
「また、そのうちここで汽笛が聞ける日が来るのかもなあ」



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釜石おじじとSL銀河ラストランの話。

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20年目のティーセット

仕事を終えて家に帰ると、玄関から甘くいい匂いが漂っているのが分かった。
「福山、仕事お疲れ様」
水島が洗濯籠を手に迎えに来てくれて「今日こっちに来る日だっけ?」と聞いてしまう。
「それは明日だけど今日お休みだから早めにね。はい、洗濯かご」
私が家に帰ると最初に汚れた作業着を洗濯しにいくことを知っているから、洗濯籠いっぱいの作業着やタオルを詰めると洗濯機のほうに行ってしまう。
普段はしないのに今日はそういう気分なんだろうか、と考えながら茶の間の戸を開ける。
すると茶の間の机の上にはケーキや焼き菓子が並び、甘くて香ばしい香りが小腹を空かせてくる。
「今洗濯機スイッチ入れたよ」
「ありがとう、今日はどうしたの?」
「今日は結婚20周年の記念日だから」
水島が訳もなくそう言いながらお茶を準備してくる、香りからして紅茶だろうか?
よく見ると緋色の備前焼のティーカップも紅茶のポットも見覚えのないシロモノで、新しく買ったのだろうかと疑ってしまう。
「……結婚というより会社の統合20周年じゃない?」
「統合を機に結婚したんだから一緒でしょ」
ゴーンショックからの回復を目指していた時代に提案された二社の統合は私たちの関係性を大きく変えた。
もともと私たちは近所に住む幼馴染から夫婦の深化は確かにそこがきっかけだったのだ。
「でも福山とこうなれて私はよかったと思ってるよ」
「まあ、それもそうよね。それで一緒になってからの20年も大変だったけど」
「あー……」
この20年を思い返すといろんな事があり過ぎた。
業界も世の中も駆け抜けるように変わっていってそれを必死で追いかけていくような、そんな20年だったように思う。
「大変だったけど福山と京浜さんたちがいて、西宮や千葉もいて、このみんなだからやって来れたんだよね」
「本当にね」
紅茶ももういい具合だろう、ポットに手を伸ばしてお茶をティーカップに注げば綺麗な赤が器によく映える。
「これからもよろしくね」
そんな一言とともに紅茶を差し出せば水島は「もちろん」と明るく笑った。



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福山と水島。
jfeは今年で誕生20年、結婚20年目は陶器婚式。つまりまあそういうことです。

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地下鉄に乗る

休日、久しぶりに家でゴロゴロしていたら水島から電話が来た。
『都営地下鉄と東京メトロってどう違うの?』
「いきなり何?」
『いやほら、今日から駅でうちの会社のアナウンス流すらしいじゃん?
だから家帰る前に聞いて帰ろうと思ったらアナウンスやるの都営地下鉄ですから気を付けてくださいねって言われた』
水島が東京の本社に来ていたのは初耳だが、話の内容は心底どうでもいい。
というかお前それを聞くためだけに土曜の朝から電話よこすのやめなさい、安眠妨害だぞ。
「経営元が違うんでしょ、鉄道は俺よく知んないから福山さんに聞けばいいじゃん」
『いやそうだけどさー……』
「なに?」
『今なんか霞が関駅着いちゃってて東京駅への戻り方が分かんなくなった』
「本社に電話して迎えに来てもらえ!もう切るからな!」

本当にどうでもいいなお前!!!!!!!

なお、この後水島は本社の顔見知りに迎えに来てもらい、無事に家に帰れたようだった。

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千葉と水島。この兄妹はどうでもいい話ずっとしててほしい。
アナウンスは都営地下鉄三田線で内幸町に向かう電車で聞けるそうです。

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そうして春がやってくる

夜勤明けの朝、一歩外に出ると思ったよりも温かい日差しが空から降ってきた。
ちょっと歩いてみれば遠くに梅の花の匂い。風は冷たいが日差しが気持ちいい。
「シーウェイブスか」
「お疲れ様です」
買い物に来ていたシーウェイブスとディーロックスがひょっこりと向こうからやってきて、その服装がすっかり春の装いだった。
荷物と一緒に花束を手にしていたので「そういやもう11日か」とつぶやく。
「そうですよ」
「夜勤明けは感覚狂っていかんな」
そう呟きながら「この後はどこに?」聞くと「買い物をしてからふたりで鵜住居に」と云う。
たぶんトモスのほうに行くのだろう。
「シーウェイブス、」
「はい」
視線がかち合うと言おうとした言葉がうまく出て来なくなる。
だから違う言葉を口にした。
「……明日の試合楽しみにしてるからな」
もう12年だ、あの日のことはあいつなりにもう折り合いはつけてるはずなのだ。
だから明日のことを口にしてしまう。
全部まっさらに流されても人は作り直せる、長い冬が終われば春が来る。
「頑張ります」
そう言って二人は歩き出す。
まだ冷たい晩冬の風がうんと二人の背中を押していた。



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釜石とシーウェイブス、とちょこっとディーロックス

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