仕事を終えて家に帰ると、玄関から甘くいい匂いが漂っているのが分かった。
「福山、仕事お疲れ様」
水島が洗濯籠を手に迎えに来てくれて「今日こっちに来る日だっけ?」と聞いてしまう。
「それは明日だけど今日お休みだから早めにね。はい、洗濯かご」
私が家に帰ると最初に汚れた作業着を洗濯しにいくことを知っているから、洗濯籠いっぱいの作業着やタオルを詰めると洗濯機のほうに行ってしまう。
普段はしないのに今日はそういう気分なんだろうか、と考えながら茶の間の戸を開ける。
すると茶の間の机の上にはケーキや焼き菓子が並び、甘くて香ばしい香りが小腹を空かせてくる。
「今洗濯機スイッチ入れたよ」
「ありがとう、今日はどうしたの?」
「今日は結婚20周年の記念日だから」
水島が訳もなくそう言いながらお茶を準備してくる、香りからして紅茶だろうか?
よく見ると緋色の備前焼のティーカップも紅茶のポットも見覚えのないシロモノで、新しく買ったのだろうかと疑ってしまう。
「……結婚というより会社の統合20周年じゃない?」
「統合を機に結婚したんだから一緒でしょ」
ゴーンショックからの回復を目指していた時代に提案された二社の統合は私たちの関係性を大きく変えた。
もともと私たちは近所に住む幼馴染から夫婦の深化は確かにそこがきっかけだったのだ。
「でも福山とこうなれて私はよかったと思ってるよ」
「まあ、それもそうよね。それで一緒になってからの20年も大変だったけど」
「あー……」
この20年を思い返すといろんな事があり過ぎた。
業界も世の中も駆け抜けるように変わっていってそれを必死で追いかけていくような、そんな20年だったように思う。
「大変だったけど福山と京浜さんたちがいて、西宮や千葉もいて、このみんなだからやって来れたんだよね」
「本当にね」
紅茶ももういい具合だろう、ポットに手を伸ばしてお茶をティーカップに注げば綺麗な赤が器によく映える。
「これからもよろしくね」
そんな一言とともに紅茶を差し出せば水島は「もちろん」と明るく笑った。
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福山と水島。
jfeは今年で誕生20年、結婚20年目は陶器婚式。つまりまあそういうことです。