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コーギーとお昼寝

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はつこいのひと。

*日立の昔の話です。





―初めて、好きになった人がいた。

―それは、恋してならない人だった。

―与えられた宿命を、初めて憎んだときだった。

はつこいのひと。

慶応4年、皇紀2528年の5月。
「江戸城が開城するそうだ、日立はどう思う?」
「・・・・・別に、どうとも思いません。」
「どうしてだ?」
「慶喜さまが我が水戸藩に不利益をもたらすとでも?」
「・・・・・最もだな、下がっていい。」
私は、適当にそう答え(正直に言って面倒)さっさと出て行くことにした。
(今・・・・・あの人の子孫はどうしてるだろうか。)
佐竹の息子たち、主の子供たち。
向こうは雪国だから雪で遊んでいるのだろうか。
(まあ、いい・・・・・)
「日立さん、何をぼんやりなさってるんですか?」
「別に?」
「あの応答はずいぶんと不思議だと思いましたよ、まあ私としては別にいいのですが。」
「そうか。」
「ああ、水戸さんからの預かり物です。」
渡されたのは数両と手紙。
手紙にはただ、『秋田へ行って来い』とだけ豪快な文字で書かれていた。
(・・・・・・どこでばれたのやら。)

*        *

秋田・出羽久保田藩
「おぬし、何者だ」
槍をこちらに向け、そう問うたのは女武人といった風情の浅葱色の紐をつけた娘だった。
「・・・・・私は常陸国水戸藩からの使いのものだ。」
「うそを吐け、そんな連絡は着ておらん!」
(・・・・・水戸の鬼、いや連絡については書いてなかったから鬼でもないか。)
「おい、浅葱。そうカッカせんでよい。」
カラン、カラン、と下駄の音を立ててきたのは小さな赤い着物の娘だった。
背丈はそう大きくないので、まだ8つぐらいだろうか。
「姫・・・・ですが、不審者であったとしたら大変は・・・・?」
「いや、祖父上の話の者に似ていてな。昔、常陸の国へ行ったときに案内した水戸殿の側用人の顔がこんな風だったと聞いている。」
「・・・・・姫の言うとおりです、水戸の側用人の者です。」
「浅葱、こやつの荷物から刃物と毒類だけとって置け。」
「・・・・・・・・かしこましました。」
「お主、名は?」
「常陸国の一部、です。」
「ほう・・・・名がないのか?」
「日立と申します、呼びにくいことこの上ありませんが。」
「確かにその通りだな、私は出羽久保田藩佐竹義撓が娘の鴇羽(ときは)だ。よろしく頼むぞ、日立。」
「・・・・・はい。」

*            *

「鴇羽さま!大丈夫でしたか?」
「・・・・・秋田、私がそうくたばるとでも?ああ、あと日立殿、こいつは秋田。日立殿と同じ者だ。」
「あなたがあの常陸国さまですか!」
「・・・・・どうぞ、よろしく。」
「父上は?」
「浅葱様とともに広間におります。」
「分かった、秋田は日立殿の案内を。」
「かしこまりました。」
鴇羽はすたすたと一国の姫君らしくしとやかに廊下を進んで行った。
「・・・・・もう、何年も前の事だと言いますのに鴇羽さまの後姿は修理大夫さまに似ています。」
修理大夫、あの人の孫のことだろう。
「坂東太郎のひ孫か・・・・・・・・そうかも知れませんな。」
「・・・・・ところで何故この遠路はるばる秋田の地へ?」
「いえ・・・・・この乱れた世ではいつこの佐竹一族の血筋が絶えるか分かりません。最後に坂東太郎の最期の血を引く男に会いに来たに過ぎません。」
「そうでしたか・・・・・最後にひとつだけ、良いですか?」
「はい。」
「いつか、常陸様のお仲間とお会いできる日を待ってます。この秋田の地で。」
あの人の死の場所は、こんなにもこの一族を愛してくれていたんだ。
その思いで、ひどく安心して幸せになった気がする。
「・・・・・はい。」
義宣さま、あなたはこんなにもこの地で愛されていたのですね。

―初めて、好きになった人がいた。

―それは、恋してならない人だった。

―私に与えられた宿命を、初めて憎んだときだった



この恋で、救われた。
そして移封によって私と義宣さまは永遠で閉ざされた。

「・・・・・日立様?」
「いえ、大丈夫です。」

初恋の人、義宣様。
あなたは幸せでしたか?




                   おわり




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