梅雨明けと同時に襲い掛かって来た酷暑はじりじりと体力を削っていく。
夏バテ気味の身体を日影に横たえ、日暮れを待っていた。
「龍ヶ崎いるかー」
(牛久だ)
チャイムと同時にかけられた声に重い体を引きずりながら玄関を開ける。
「よっ」
にっと笑って見せてきたのは小さな袋。
袋の中から聞こえるばちゃばちゃという魚の飛び跳ねる音が涼しげだ。
「それ、鰻?」
「利根川までサイクリングして釣ってきたから、一緒に食おう」
「今日金曜日じゃ」
「休みとった、こー言うのはお前と食う方が楽しいしさ」
昔から牛久は天真爛漫に笑う牛久は、綺麗だ。
それが何でこうも歪んでしまったものかと思わないでもないが、それでもいいさと思ってもいるのも事実だ。
「ここで捌く訳?」
「そうだけど」
「なら、どうぞ」
牛久を自宅に招き入れる。
街の中心部から一本路地に入った古い一戸建ては、イメージと違うなどと評されることも多いがまだ住めるのに金を使って新しい家を建てるのももったいない気がしてそのままだ。
台所に立った牛久は早速まな板を引っ張り出して鰻を捌き始める。
「龍ヶ崎って意外と物持ち良いよな」
「一度愛着が湧くと捨てられない性質なんだよ」
「確かに、お前は意外に情が深いよな」
それはお前に対してだけだけどな、というツッコミは止めておいた。
手早く鰻を捌くと、魚焼きグリルに入れて焼いていく。
その間に米を炊いたり持ってきた鰻のたれを温め直したりと慣れた手つきでうな丼を準備していく。
何かあると牛久がうな丼を準備するのは県南組の間では見慣れた光景となっているが、何度見ても不思議と見飽きる事が無かった。
「鰻と米の準備整うまで少し時間あるけど、どうする?」
「……冷蔵庫ん中に冷凍のコロッケあるけど」
「ああ、最近お前のところでお勧めしてる奴な。じゃあコロッケつまみにビールでも行くか」
そうして喜々として準備を始める牛久にを見つつどれぐらい食べられるだろうかと少しだけ心配した。
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机の上には肝吸いに白焼きとうざくとうな丼に鰻茶漬け、日本酒とビール、そしてコロッケ。
牛久が大量に用意したウナギ料理と酒はいかにもがっつりとして胃に来そうだ。
「「いただきます」」
どれから行こうかと考えていると、鰻茶漬けとうざくが目の前に出される。
「こっちの方が夏バテ気味でも食べやすいと思うぞ」
「……気付いてたのか」
「まあな」
鰻茶漬けを一口食べると、少しだけ元気が湧く。
さっぱりしたお茶漬けはするすると胃に収まっていく。
(早く夏バテを治しておかないと)