*そろそろ謝罪文はトップページに書くべき気がする神栖さんの話です。
5月である。
誰に何と言われようとも5月である。
「・・・・・・相変わらずこの時期だけはおかしいよな」
「しょうぶの時期が勝負ですからね」
「潮来、それすごく親父ギャグみたいだよ」
そう、水郷・潮来にアヤメが咲き誇る季節である。
前途多難だ神栖さん!潮来花嫁さんは船で行く~♪というあの歌のとおり、潮来の花嫁はアヤメの季節には船で行き来する。
・・・・・・歌が古い?気のせいだ。
潮来にとっては観光客の来るかきいれ時であるこの季節、手伝いもかねて鹿島とここへ来るのが毎年の通例となっていた。
「そう言えば銚子さんのご様子はいかがです?」
「・・・・・・何時も通りだな」
「何時もどおりだね」
「そうでしたか、香取があーだこーだ言ってますけど気にしなくて良いですからね。神栖には神栖の考えがあるでしょうし」
「そんなこと長い付き合いで知ってる」
潮来と香取はそこそこ長い付き合いがあり、あの二人は意外に仲がいい。
まあ外面はいいけど中身のアレな香取と軽く聖人レベルの心の広さを有する潮来なのでどう考えても香取が潮来を振り回してるんだろう。いつか〆ておこう。
「そうでしたね、ところでアヤメの花言葉はよい便りだそうですよ?」
その後ろに付く言葉は大体予想が付いた。
「「銚子さんによい便りを送って差し上げればいかがですか」・・・・・・だろ」
「神栖ってばまね上手だね」
のんきに笑う鹿島をスルーすると、潮来があきれたように言う。
「そこまで自覚してるならあまりつっけんどんになさるのはどうかと思いますが」
「してない」
「いいえ、今の貴方は意地を張ってますよ。」
潮来の厳しい指摘を受けると、そろそろ帰りの電車に間に合わなくなりますよといわれて家路に着いた。
* *
潮来の指摘は間違ってはいなかった。
波崎の事で散々振り回しているのだし、魚もよく貰うし。
それでも、波崎が好きだった相手ということがのどに刺さった小骨のように存在している。
「よぉ」
「・・・・・銚子?」
「おめぇさん玄関の鍵開けっ放しだぜ?」
ほれ、とビニールに詰め込まれた魚を手渡された。
佃煮になった小魚を冷蔵庫にしまいこむ。
「何時も思うが、よくまあうちに来るたびに手土産用意できるよな」
「むしろ『魚以外をもってこい』といわれないだけましだねぇ、魚ならいくらでも用意できるんでなぁ。酒はあるかい?」
「カップ酒でよければあるが」
数本の冷やし酒をテーブルに並べて、適当な魚をテーブルに並べた。
「んじゃ、乾杯」
「おお」
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カップ酒がなくなり、ボトル酒を一本カラにした頃には終電もなくなっていた。
「帰らなくていいのかよ」
「どうせ明日は日曜だからなぁ」
「そうか」
空のカップをグラス代わりに酒を飲みつつ、以前人から貰い受けた秘蔵の酒でも出そうかとぼんやり考える。
「・・・・・結構、お前のこと好きだわ」
「そうかぃ、俺もおめぇさんのことは好きだねぇ」
「波崎の代わりでよければ付き合っても良いぞ」
「そうかい」
寄った頭で左手を差し出すと、銚子が口吸いをした。
軽くあとが残った左手をすそでぬぐった。
「しばらくは恋人ごっこかね」
「さあな」
終わり
波崎のことを未だに気にする神栖のおかげでこんなことになりました。
ごく自然な形で恋人になってもらうことが私の技量不足でできなかったのでこうなりました・・・・・。ぎゃー!