小さく口ずさんだ歌は片思いの歌だった。
筑波鉄道があった頃の写真を鮮明化しながら、彼のいた時代の記憶に涙が零れそうだ。
―もう彼はいない
そのことを寂しくないというと嘘になる、だけれど僕は彼に恋をしていたとかそういう訳でもない。
きっと恋とか愛とかそんなおちゃらけたものでなく、僕は彼を体の一部のように思っていたんだろう。
彼が県内外から乗客を筑波山のふもとまで運び、バスでつつじヶ丘へ、頂上までは僕が連れて行く。
そんな分担が出来ないことがきっと何よりも悲しい。
だからせめて僕は彼の生きていた時代をカメラに刻み付ける。
恋とかそういう気持ち以上で筑波鉄道が好きだった筑波登山軌道のおはなし。
筑波鉄道は人に愛される天才だったと思っています。