ブレーキのついたピストでまっすぐな道を漕いでいく。
向かいからふきつける冷たい風が僕の古い記憶を目覚めさせていく。
まるで僕が彼のいる死に突き進むみたいだ。
突然携帯が大きな音を鳴らす。
『もしもし、高尾線だけど』
「・・・・・またうちに来たんですね」
『うん、よかったら一緒に食事しない?飲みでもいいけど』
「いいですけど、今ちょっと遠くに行ってるんで1時間ほど待ってもらええないと無理ですよ?」
『遠くって?』
「筑波りんりんロード・・・・って言っても分からないでしょうけど」
『具体的には?』
周囲を見渡すと二つ頭の筑波山、反対側には雨引山も見える。
雨引山の先には雨雲が見えるから引き返すのは得策だろう。
「筑波山の北のほうです」
そういえば彼は雨が嫌いだった。
雨で濡れた風情ある真壁の町は好きなくせに、雨が降ると山が見えなくなるから嫌いだといっていた。
そのたびに筑波駅で山のことを僕やバスから聞きたがった。
どれぐらい山に人が来てるのか、紅葉や桜が雨で散ってしまわないか、周辺の田畑の様子。
(彼の生きていた時間を覚えていることが僕にとっての供養なんだろうか)
『名に考え込んでるの』
「ああ、ちょっと昔のことを」
『じゃあ筑波の昔話あとで教えて、つつじヶ丘で待ってるから』
電話を切ると自転車で引き返す。
僕のいるべき場所はこの道の先や過去あるような死ではなく、筑波山や今という生だから。
実は最初に書いたやつをうっかり吹っ飛ばしたのは内緒です。
筑波鉄道と筑波登山軌道と高尾線。