下妻の家
「つっくばー、下妻ーおまたー☆」
「ああ、わざわざすいませんね」
「下妻は気にしなくてもいいって、いつもうちの常総が世話になってるしさ!炊飯器の準備って出来てる?」
「出来てるよ?」
「でもなんでうちでぼたもちを?」
「うちにある一升炊きの炊飯器壊れちゃってさー、つくばが『下妻なら一升炊き炊飯器持ってるよ』っていうからねー。下妻もあっさりいいよって言うからご好意に甘えちゃおうかと思って」
数日前、不慮の事故であの世に召された我が家の巨大炊飯器はなんとも不都合なタイミングで一番必要とする時を迎えていた。
君に届け!あずきは下妻の家にあった貰い物で、お米ときなこはこちらで用意した。
もち米うるち米を3:1の比率で混ぜて、ひたすら米を研ぐ。
「いや、そういう意味じゃなくて・・・・・」
「他にもいくつか理由はあるけどさ、そういう下妻は何で一升炊きなんて持ってるの?」
「昔から色んなイベントごとに巻き込まれるんですよ、それに料理が出来ない人に良くたかられるので・・・・・」
「つくばに?」
「それもあります」
水切りしたお米を炊飯器に入れて、水にさらす。あとはこれを炊飯器にいれて一時間待つ。
「手馴れてますね」
「うちで毎年作るからね」
「きなこと砂糖混ぜ終わったよ」
「おー、つくばお疲れさん」
「これから小豆炊くの?」
「そーそー、こしあんとつぶあんどっちが好き?」
「こしあん!下妻もこしあんでしょ?」
「羊羹はこしあんですけど大福やぼたもちに限って言えばつぶあんです」
こしあんつぶあん抗争が勃発しかけた二人を抑えた後、こしあんとつぶあんどちらを多めにするかを考えてみながら、鍋に小豆を入れて炊く。
「今年はおすそ分け多目だからこしあん7のつぶあん3にしようかな」
「そろそろ差し水したほうがいいですよ」
下妻の指摘で鍋に水を差して、煮詰まったところでこしあんにする分を別の鍋に移して砂糖を入れる。
「下妻、これこしあんにしといてくれる?」
「了解です」
茹で上がった小豆を身が全部取れるまで漉し機で漉していく。
そしてそれを小豆の水分と身が分離するまでさらす。
「・・・・・手際いいね」
「だって下妻だし」
こちらは全部冷ますだけだ。
お米のスイッチを入れて、一旦休憩をしよう。
あずきの身を鍋に入れて、砂糖と水で再び煮る。
「・・・・・こしあんってめんどくさいんだね」
「毎年めんどくさくてもやっちゃうんだよねぇ、この時期はさ」
こしあんが出来上がったところで、お米の炊き上がりの音がする。
炊けたご飯を豪快につぶし、ごはんを一つ一つ小さく丸める。
きなこ用のごはんの中にあんこをつめる。
「俺がごはん丸めてあんこつめるからつくばがきなこつけて、下妻がつぶあんとこしあんでご飯包んでね、俺あんこつつむのプロ並だからさ!」
そんな調子で3人まとめてぼたもち製造機と化す。
大量の牡丹餅が皿とラップを敷いたテーブルの上に載せられたところで、牡丹餅が完成した。
「・・・・・付き合ってもらってごめんにゃー?ちょっと行くとこあるから」「あ、なら付き合うよ」
いくつかの牡丹餅をラップにくるんでビニール袋に放り込んだ。
* *
筑波山中腹。
「・・・・・やっぱりね」
「でしょー?」
ひっそりとした小さなお墓、俺が一番好きな人のお墓。
たった数年だったけれど誰よりも大切な人のお墓の前に牡丹餅を備えた。
「そういえばお彼岸だもんね」
「まあ筑波は和菓子だとあんこよりお餅の方が好きだったけどさ」
「なら大福供えれば良かったじゃない、市販の奴」
「・・・・・市販じゃ駄目なんだよ」
筑波がいなくなってもう何十年も経つ。
手作りと市販品に違いがあるように、経年数だけでは図れないものがある。
この手作りぼたもちに込めた想いが遠い遠い君に届きますように。
本当にうちの京成は筑波大好きですね・・・・・。
呆れる。いつもいつもいつも筑波に思いを馳せてる駄目夫です。どうにかしてやれよ天国の嫁。