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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

2人は双子ちゃん!(嘘)

割としょうもない小ネタ


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世界で一番美しい呪い

大阪の街は焼野原であった。
ありとあらゆる建物が瓦礫となり老若男女が行き交って暮らしている。
唯一の救いはもうあの耳をつんざくようなサイレンを聞かないで良いことぐらいで、焼野原の何もない街はどん底以外の何物でもない。
まだ小さな和歌山は手を掴んだまま、尼崎は一言も口を開かないまま大阪の街を歩いていた。
「……尼崎、」
「なに?」
「仕事が増えるよ」
「何さ急に」
「この焼野原に新しい街を作るんだ。ゼロから道を、ビルを、鉄道を、新たに作り直す。そのために必要な鉄を生む、それが私たちの存在意義だ」
「……そんなの分かってる」
尼崎の目は何かを堪えるようであった。
それは当然のことであった。
住友家にもう私たちを守る力が無い事も、生き延びるために多くの仲間が去り行く運命であることも、そして自分たちの作ったモノの哀しい末路も、見ないふりなんてしていられなかった。

「俺はこんな未来のために生まれたわけじゃない」

それは本音であった。
全てはまやかしで、その砂上の楼閣はあの雑音まみれのラジオによってただの砂になったのだ。
「ああ、それは私もだよ」
砂上の楼閣はついえた。
「あまがさき、」
和歌山がふいに声をあげた。
「あそこ、おはながさいてる」
指をさした先には一輪だけ花が咲いていた。




旧住金組の話。終戦記念日にちなんで。

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灯篭ながしの夕べ

勤行川の上にぷかぷかとロウソクをともした船が流れていく。
「きれいですね」
筑西がうっとりとした声でそう呟いた。
確かにこの景色は幻想的で、不思議な空気が漂っている。
「筑西、」
「はい?」
「……この灯りは死者を弔う灯りなんだぞ」
「ししゃをとむらう」
筑西はまだ分かってないという顔でこちらを見ていた。
別にそれが駄目だという訳でもないのだが、無垢であるという事は無知であるという事なのかもしれないと考えなおす。
「灯篭、ひとつだけ流しとくか」
「はい」
灯篭をちゃぷりと川の上に浮かべていく。
もう遠くへ去った仲間たちの顔が、ロウソクの明かりの下で浮かんでは消えていく。
2人でロウソクに手を合わせながらふとしたことが頭の隅に浮かんでいく。
(……俺ももうすぐ、向こう側へ逝くのだろう)
川の流れに押されるように灯篭は届かない場所へ静かに流れて行った。





筑西と下館。
下館の灯篭ながしの話を聞いてふと思いついた話。

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墓前語り

「墓参り行くわよ」
「はい?」
俺の母親分・姉貴分に当たる神戸製鋼神戸製鉄所は人んちに押しかけての第一声がそれだった。
「いや、そないな事言われてもさっき北海道から帰ってきたばかりやしトップリーグ開幕に向けた準備が……」
「新盆なんだから行くわよ」
「いや、新盆って誰の……ああ、あの人か」
思いだしたのは昨年10月に惜しまれながらこの世を去った往年の名選手。
80年代から90年代の己の、いや日本ラグビー界の黄金期をけん引した多くの名選手たちのうちの一人として今も多くの人々の記憶に名を遺しているであろうその人であった。
「そういう事、行くわよ」
「まあそれならしゃあないですね」

****

墓地の前には早くに世を去った彼を忍んでの見舞いの品が多く並んでいる。
緑の線香に火をともし、ワンカップを墓石に注ぎかけ、菊の花とまんじゅうを一つを墓前に飾る。
「……そういや、憶えてます?」
「なにを?」
「神戸製鋼ラグビー部7連覇の時の祝勝会」
そう告げると彼女はしばし考え込んでから「何かまずいこと言った?」と尋ねてきた。
「まずい事、かどうかは分かりません。でも俺の記憶してる限りやと祝勝会で泥酔したあとあの人に向かうて『あなたが死んだら私の婿として転生させて練習場の守り神として身近に置く』って言うてましたね」
「……覚えてない」
愕然としたようにこちらを見てくる。
釜石のじー様やその一番弟子の話を聞く限り、彼女が記憶を失うほど泥酔することはほぼ無いらしいが俺が記憶してるだけで3度泥酔している。
「じゃあ、あれは覚えてます?全国社会人大会の新日鉄釜石8連覇が阻止した日の夜」
「……釜石と呑んだことは覚えてるわね、それであの子抱きかかえてものすごい荒れてた」
それ以降の記憶はやはり無いらしい。
まああっても困るか、という気もするがせっかくなのであの夜の事を引きずり出そう。

―1985年(昭和60年)―
「神戸、助けてくれ」
準決勝でノーサイド直前の勝ち越しで勝利を遂げ、トヨタとの決戦に向けてさあ寝ようと考えていた矢先の電話だった。
「助けてくれって何があったん」
「お前んところの親会社が泥酔してうちの親父と暴れてる」
電話越しに聞えてくるのは怒号とも悲鳴とも分からない口論の声。
「あんたたちの併合の時誰が巻き添え食ったと思ってる訳?!救済合併とか言われてたくせに!」
「それは今関係ないじゃろうが!今回はわしの痛飲に付き合うだけじゃったんじゃないんか?」
なんというか、これは相当酔ってる。たぶん誰にも手が付けられない部類のアレである。
まして電話の主である新日鉄釜石ラグビー部という存在は女性に慣れていないので泥酔した神戸を留めるなんて出来る事じゃない。
「……今行くわ」
そうして指定された場所まで迎えに行ったのだが。
目の前に広がっていたのは、釜石のじーさまにジャイアントスイングぶちかます神戸であった。
なお、電話を寄越した方の釜石はどうしたらいいのか分からないという顔で俺を見ていた。真鍮はまあ察して欲しい。
結局神戸本人が飽きるまでジャイアントスイングを続けさせた後、呑み足りないと騒ぐ神戸を強制的に布団に寝かせたのであった。

「……っていう地獄の沙汰が」
「え、まさか釜石が一時期私に酒を飲ませなかったのって……」
「間違いなく原因それやろな」
「我ながら引くわね」
墓前で頭を抱え始めているがこんな話あの人に聞かせて良いのだろうか。というかこれ自体あの人が入社する前の話である。
「まあでも一番ひどかったんは初優勝ん時ですけどね」
「待って私そんなにひどいことした?」
「どっかからビール持ち出して俺にビールぶちまけたのが東芝の神経逆なでしたのを見てサントリーが飲み比べで雌雄を決しようと言い出して、呑み比べおっぱじめたあげく全員企業勢全員泥酔したのとか」
ノーサイドの精神とはいったい何だったのか、と若干疑問を感じたことを覚えている。
まあ初優勝の酒は美味かったのだが、一番悲惨だったのは呑み比べで泥酔した面々が吐いたものを妙な悲しみと沈黙に包まれながら俺たちで処理したことぐらいであろうか。
あの時最大の被害者は間違いなく俺と東芝府中である。
「……その翌朝人生最悪クラスの二日酔いに見舞われたのは覚えてる」
「そりゃあ良かった。俺は今だに逢うたら菓子折りでも渡したい気持ちんなります」
後にオオカミを名乗ることになる男のあの死んだような目と、野武士と呼ばれた男の憐みの視線は忘れようのない記憶である。
「そうするわ」
「是非そうしたって下さい」
「……でも、あれからもう何年経ったのかしらね」
「もう20年は経ちますよ」
「優勝から少し遠ざかっちゃったわねえ」
「当てこすりですか?」
「ぼちぼちトップリーグの優勝が見たいわね」
「負けたくて試合するわけやないですからね、最後の笛まであきらめずに粘れば逆転かてあるんですから」
「91年の社会人大会決勝みたいな?」
「ええ」





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梨を食う

大分からクール便の荷物が届いた。
『この半年お世話になったのでそのお礼です』という簡素なお礼状と一緒に届いたのは、カボスや冷凍のから揚げととり天に大分の焼酎と言った大分の特産品の詰め合わせだった。
比較的日持ちのするものが多いのはありがたい。大分の妹分である光の入れ知恵だろうか。
とりあえず冷蔵庫にポンポンと押し込んでいくことにすると、箱の奥の方にまだ入っていたことに気付いた。
「……幸水か」
大玉の梨が二つごろんと箱の隅から飛び出してくる。
一つは冷蔵庫にしまうとして、もう一つを水で軽くすすいでから皮をむく。
皮を剥いだ真っ白な身から果汁がしたたり落ちてくるのは食欲をかき立てる。
梨は秋の果物のイメージが強いが、幸水は7月下旬ごろから出回り始めるので今頃がちょうど旬の手前の走りの時期に当たる。
包丁でざっくりと4つに割り、一つを口に運ぶとひんやりした梨の甘い果汁が口の中に満ちていく。
「いい梨だな」
ここ半年ほどずっとバタバタしていたけれど、こういう美味いものが届くなら頑張った甲斐があると言うものだ。





君津と秋。
フォロワさんに指摘されるまで君津の話であることを明確にしていなかったという衝撃。

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