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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

かなしみのくつ

夜の東尋坊は潮騒の音しかしない。
それゆえ投身自殺の名所などと呼ばれているが、最近はなんぞのゲームの影響で夜でも人気を感じることが増えた。
これで汚名を晴らせればありがたい限りなのだけれどいつもそう上手くいくものでもない。

目の前には、革靴がひとつ揃えられた状態で崖の縁に置かれている。

(……ああ、間に合わんかったのか)
大きさからして女性だろうか、デザインも革で出来た花があしらわれた可愛らしいものだ。
持ってきていたビニール袋に靴をしまっておく。カードには拾った場所も書いておく。
せめて、この海の底で安らかであってくれと手を合わせて。



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餅と兄弟

「兄弟、餅食うか?」
ビニール袋片手に気仙沼までやって来た兄さんは珍しく手土産付きだった。
「正月でもないのに?」
「一関の方だと隙あらば餅つくからな……」
「ああ、あっちは餅文化なんだっけ。お茶でも入れるよ」
「冷たい奴で頼む」
冷蔵庫から氷と一緒に冷たい水出し緑茶を取り出すと、ビニール袋から次から次へと小さなパックに入った餅が次から次へと出てくる。
小ぶりのパックが総勢10個、確かにこれは一人で食べるには多すぎる。
「多くない?」
「おばちゃんに持たされた」
「ああ……」
「残ったら南リアスにやるから好きなの選んでいいぞ」
「じゃあずんだとみたらし貰うね。兄さんは?」
「俺は向こうで食わされたからいい」
セロテープでとめられたパックを開くと、ずんだ餅の鮮やかな緑が食欲をそそる。
冷たい緑茶が夏の身体を程よく冷ましてくれて気持がいい。
「じゃ、いただきます」
「おう」
つきたてのお餅は箸で掴んでも分かるぐらいに柔らかく、美味しそうだ。
一口ほうばれば仙台でもお馴染みのあの味である。
兄さんは冷たい緑茶を飲みながらため込んでいた書類(ここのところ一関にずっといたせいだ)を読み始めていた。
元々僕が生まれる前の南三陸の足であった路線の時代を想像させる真剣な眼差しだ。
(……昔はいっつもこういう顔してたのかなあ)
三陸が陸の孤島であった時代、政治によって歪められた奇怪な線形に振り回されながら一人で頑張っていた時代。
「兄さん、」
「うん?」
「……緑茶のお代わり要る?」
兄さんは手元のグラスを覗いてから、残りを一気に飲み干して「お代わりくれ」と答えた。



おまけ:盛駅にて
大船渡線「南リアス、餅食うか!」
南リアス線「たべる!」
日頃市線・赤崎線「「餅と聞いて!」」
大船渡線「お前らいたのかよ!」
南リアス「ふたりがきたらぜんぶたべちゃうでしょ!かえって!」
この後南リアスと日頃市・赤崎による餅争奪戦が繰り広げられたという……。


大船渡線と気仙沼線。
某くもじいの番組に大船渡線が登場した記念に。

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遠い友達

胸の奥に閉じ込めた思い出がある。
海の向こう、外地という名の異郷の匂いを背負った少年と過ごした記憶だ。
今はもう会う事も出来ない彼のことを覚えてる人ももうずいぶん少なくなってしまった。
「ねえ、呉」
「はい?」
「もう会えない人に会いたいって、思った事はある?」
今、目の前にいる年の離れた友人はその問いに困ったような顔をした。
「……俺の会いたい人はいつも近くにいてくれますから」
きっとうまい返事が思いつかなかったのだろう。
呉なりに言葉を選んだ答えだった。
「それは、すごく幸運なことだよ。大切にしてあげな」



俺の、もう一度会いたい友達は、あまりにも遠くにいる。


広畑と呉と広畑の遠い友達。

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あてなよる

イチマルさん(@10_plus10 ‏ )ちの茨木さんをお借りしたお話。


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夏のお話

・酷暑(君津+東京)
クーラーの効いた事務所から一歩外に出ただけでむわっとした湿気と熱波が顔に来る。
もう日も暮れた午後5時過ぎだというのにこの暑さはいかがなものか、と彼女の脳裏によぎる。
「よう、」
「君津がこっち来るなんて珍しいじゃん」
黄色みの強い金髪をオールバックにしてクールビズ仕様のビジネススーツを着た君津がそこにいた。
ビジネス仕様の服装なんて珍しいから今日は客相手に何かしに来てたのだろうか。
「帰ってから飯食うのめんどくさくて泊めてもらおうと思っただけ」
「ああそういう事ね……」
その名の通り本来は内房に住む彼がこの東京とは名ばかりの板橋の外れまで来ることは意外に少なく、むしろ彼女が彼の元へ行くことの方が圧倒的に多かった。
「というかどこ行くつもりだったんだ?」
「食材調達、冷蔵庫が空だったんだよ」
「……夕飯スイカで良いんじゃねえ?」
ほれ、と掲げてきたのは立派な大玉スイカである。
バスケットボール大はあろうかという立派なそれは確かに二人で分ければちょうど良さそうだ。
「お前がそれでいいなら夕飯スイカでいいか」
そもそもスイカは食事ではない、という事実には目を背けてこの熱波から逃れるために事務所へと戻って行った。

・海(大分+佐賀関)
この隣人は釣りが好きである。
自分が生まれた時にはすでにこの豊後水道に釣り糸を垂らし、それを捌いて食っていた。
「……何か釣れてる?」
「仕事サボりか?」
「息抜きの散歩」
「散歩にしちゃあ少し遠くまで来たな?」
そう言いながらもクーラーボックスを椅子代わりに座り込んだ俺を追い返そうとはしない。
佐賀関は自分よりもずいぶんと長く生きてきた。同じ会社どころかヘタすると業界内でも年少に分類される自分には想像もできないほど昔の時代を彼は知っている。
「火傷の調子はどうだ?」
「だいぶ良くなってきた」
「そりゃあ良かった」
佐賀関の視線は水面に浮かぶ浮きに向けられている。
ちゃぷん、と浮きが海面に沈むとタイミングを合わせて一気に引き上げる。
その先にいたのは大ぶりなマイワシだ。
「……美味しそう」
「生きてる魚を見て美味そうって八幡辺りが聞いたら卒倒する発言だぞ」
「でも、イワシの刺身って前作ってくれたじゃん」
「そうだっけ?」
「忘れた?」
「ま、どっちにしても刺身食いたいなら食い終わったらちゃんと仕事に戻るって約束しろよ」
「うん」





フォロワさんとの絵茶会の際に書いたもの。

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