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コーギーとお昼寝

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神戸ネキがフレンチトーストを焼くだけの話

冷蔵庫のタッパーには卵液のよく染みたフランスパンが4切れ入っている。
ティファールのフライパンにほんの少しのエシレバターを落とし、軽く広げてフランスパンを並べる。
溶けたバターの香りにほんの少し混ざるマンゴージュースの香りが思わず頬を緩ませる。
(卵液に果物の果汁を入れると美味しいって聞いて試してみましたけど、正解でしたわね)
此花辺りが見たら『平日の朝ごはんに許されざる贅沢だ』と怒るのだろうけれど、いつもこんなにいい朝ご飯を食べている訳じゃないから許してほしい。
だって今日は月曜日なのだ。ブルーマンデーで朝から夕方まで会議の連続。そう言う日ぐらいいい朝ごはんの一つでも食べさせて欲しい。
フレンチトーストを焼く間に、加古川から貰ったモカエキスプレスに水と紅茶の茶葉を仕込んで火にかける。これが沸くまでには少し時間がかかるからその間に冷蔵庫からミルクを出してカップに先に注いでおく。常温のミルクに紅茶を注ぐと味が美味しくなるのだ。
フライパンにもう一度バターを足してからトングで裏面を軽く焼く。やがて両面がきつね色に焼きあがったフレンチトーストが食欲をそそる匂いを立ててくる。
これをお気に入りの白い皿に盛って、お気に入りのイチゴジャムをひとさじ。
最後にモカエキスプレスで作った紅茶のエスプレッソを常温のミルクと合わせれば朝ごはんの出来上がりだ。
月曜日の憂鬱を吹き飛ばす、美味しそうな匂いに心が幸せになっていくのがわかる。



「いただきます、」


神戸ネキとフレンチトースト。

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君津が鹿島と千葉に朝食を作るだけの話

「……なんだこの大惨事」
二日酔いの朝、鹿島にたたき起こされて連れてこられた台所は大参事だった。
汚れものと割れた食器が散乱し、床には卵や小麦粉が落ちている。
確か千葉の家が綺麗になったから行こう!と鹿島が俺を連れて来た時はまだロクに汚れてないはずで、つまみも作らされたがそのあとにちゃんと 片付けたはずだった。
「朝ごはん作ろうとしたら失敗したから作って♡」
食卓の上で死んだように眠る千葉は何故この大惨事の音に気付かなかったのだろうと真剣に考える。
鹿島の好き勝手な性格は別に今に始まったことじゃないので全員がその矯正を諦めている。住友の名のもとに甘やかされて育った暴君は一生暴君のままだろうという諦めだ。
「とりあえず掃除用具取ってくるから、テレビ見て待ってろ」
「分かったー」
適当な棚をひっくり返して出てきた綺麗な雑巾で床と台所をぬぐい(もったいないけど捨てた)汚れものは備え付けの食洗器に入れて、割れた食器類もゴミ袋に投げ込んだ。
とりあえず人間が歩ける状態にまで戻った台所で、まともに使えるのは大鍋と菜箸ぐらいという状態になった(他は全部鹿島が壊したか汚して食洗器に投げ込まれた)
幸い千葉はそれなりに自炊するから食材はある。問題は何を作るかだ。
ふと目についたのは4パックセットのレトルトカレー。冷凍庫の方を見るとちょうど5玉セットの冷凍うどんが鎮座している。
「鹿島、うどんでいいか」
「何うどん?」
「カレーうどん」
「じゃあごはんつけて、俺カレーうどんとごはん一緒に食べたい人なんだよね」
「ご飯炊くのめんどいから却下」
不満げに言う鹿島はとりあえず無視だ。
大鍋に水と粉末出汁とレトルトカレーと冷凍うどんを投げ込んで煮込む。あとはこれで煮えれば完成だ。
水分を取りながらぼんやりと鍋が煮えるのを待つ。
「……いいにおいがする」
「なんだ、千葉起きたのか」
「いまおきたとこ、あとれいぞうこんなかのむぎちゃとって」
寝惚けて舌足らずに喋る家主に麦茶とグラスを差し出す。
まだうっすら酒臭いのは昨晩の飲みの名残だろう。
「ん、」
「あんがと」
麦茶を勢いよく飲み干してから麦茶の瓶を押し付けて「風呂入ってくる」と出ていく。
たぶん、風呂から戻ってきたころには食い頃だろう。



幼馴染三人とカレーうどん。このレシピ手っ取り早くて好きです。

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兄と弟と

「珍しいじゃぁん、どげした?」
引き戸を開けて出てきたのはひどく小柄な俺たちの兄であった。その名をアート商会、という。
ホンダと同じルビーレッドの瞳を持ちながら、全体の印象は俺とはさほど似ていない兄の住む家を訪れるのは何年かぶりだった。
そもそもここに来る理由だってそんなになく、かといって何の理由もなく行けるほど親しくもない。だから行きたいと思ったら適当な言い訳をつけて来るしかなかった。
「近所に用事があったもんで、そのついで」
「おお」
そう言って茶の間に連れて行くと、温かな緑茶とみかん餅が差し出されてくる。
もち米と皮付きみかんを一緒に蒸して混ぜた淡いオレンジ色のそれは、軽く摘まむとやわらかな感触がしていかにも美味しそうだ。
「そーいや技研は元気け?」
「まあ、元気にしてる」
「あいつもささがしい(せわしない)もんでお前から聞くしかねぇんだに」
「……手紙ぐらい寄越せばいいのに」
「けんが、返事何処に出せばいいのか分かんねぇもんでほっぽるしかねぇんら」
ほんのりと甘酸っぱいみかん餅を温かい緑茶で流し込む。
お茶の温かさが冷えた指先を温めてくれている。
窓の外からぽつぽつと雨の降る音がして、先ほどから寒いと思っていたら雨が降り出してきたらしい。
「あいつはお前のことが好きだらぁ?」
飲んでいたお茶が気管に入りかける。
何を言っているんだこの人は。いや、事実なのだ。あんなことやそんなことするぐらいにはあいつは俺が好きだし、俺もそれを拒まない程度にはあいつが好きなのだ。
だとしてもなんで気付かれたんだ。いつ、どこで気づかれた?
「あわっくいが」
遠州弁で粗忽者と言う意味の言葉がその口から洩れる。
にやりと笑っているその顔と言葉で、カマにかけられたのだと悟った。
「……そうだよ」
「やっぱりそうじゃんな」
「なんでそげ思ったけ?」
「兄弟の血だらぁ」
つまり、大して意味はないという事だ。
「やぁっと一緒におったで、なんとなくわかるだに」
にやにやと楽しそうに笑うその人を見て、弟は逆らえないという運命の事を考えていた。






アート商会と東海精機。

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そーれそれそれお祭りだー!

『25日は開けといてくれ、伝達式の後鍋パーティーしよう』
牛久からのメールが届いたのは稀勢の里の横綱昇進が決まった1時間後の事だった。
稀勢の里優勝の次は横綱昇進である。牛久はそれはそれは喜んでいて、喜びのあまり牛久沼に飛び込んだという噂が地元で語られているとかいないかとかのレベルである。風邪をひくからやめて欲しい。
昼間の優勝パーティーは自分の家に呼べるだけ呼んでのどんちゃん騒ぎだったが、横綱昇進は静かに祝いたいらしい。
『了解、何か要る?』
『野菜でも持ってきてくれれば助かるな、酒と肉と魚はある』
優勝パーティーの時、それぞれが思い思いの手土産を持ち込んできていたからそれがまだ残っているのかも知れない。初優勝に沸き立って常陸牛やローズポークに霞ヶ浦の魚たち、そして県内各地の数えきれないほどの酒の山が積まれた牛久の家を思い出す。
あれだけあれば鍋の具材には困るまい。自慢の竜ケ崎の野菜を多めに持って行くことにした。

****

昼前に牛久の家のドアを開けると早速酒臭かった。
「……もう開けたんだ」
「おう」
ネストビールの瓶が一本空になっていて、飲みさしの二本目が机の上に鎮座している。
商店街で買ったらしいコロッケやメンチカツを流しながらテレビで繰り返し流される伝達式の様子を見返している。
「鍋どうする?」
「商店街で豆乳もらったから豆乳鍋で」
早くもほろ酔い気味の牛久をスルーしてやれやれという思いで土鍋に豆乳と予め切っておいた野菜を投入する。
ついでに冷蔵庫を開けると優勝パーティーの時に下妻の家から貰って来たという白菜がまだ半玉残っていたのでそれも刻んで投入しておこう。
あとは手羽元に常陸牛にローズポーク、それに大洗や鹿島灘の魚や霞ヶ浦のシラウオもまとめて鍋に放り込んでコンロに火をつけてから蓋をする。
「竜ケ崎ぃ、」
「うん?」
「三月場所は一緒に見に行こうなぁ」
へらっと嬉しそうに笑う牛久に、三月場所って大阪でしょ?なんて無粋なことは言えないのだった。





\稀勢の里初優勝&横綱昇進おめでとうございます!/

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まだ春は遠い

嫌になるくらいに降り積もる雪を掻き分け、ふうと軽くため息を吐いた。
昨晩から今朝にかけてどっさりと降り積もった雪は下ろすだけで一苦労で、この後空き家の雪も下ろしに行かないとならないのだから嫌になる。
勝山や大野辺りに比べればまだましとはいえ毎朝雪かきをしないと生活に支障が出る。不便だ。
ポケットに入れていた携帯が鳴り響き、かじかむ手で電話を取る。
『鯖江、いま大丈夫?』
「雪かきしとったとこですけど、まあ大丈夫ですよ?」
スノーダンプをいったん脇においてその呼びかけに応じる。
福井に対する敬語はもう江戸の世からの習いみたいなもので微妙に抜けきらない。
『えっ』
「うちの周りの雪かきを終えて近所の空き家の雪下ろそうか考えてたとこなんで」
『ああ、なら良かった。屋根の上にでもいたら危なかったし』
「で、ご用件は?」
『うちで使ってた湯呑を割ってしまって、鯖江の馴染みで金繕いの職人さんがいたでしょう?あの人にお願いできないかと思って』
「あー……あのおっちゃん少し前に入院してて今は出来んと思いますよ」
『そうだったの?』
「別の漆屋に頼んで金繕いしてもらいます?腕は俺が保証しますよ」
『じゃあ、お願いしていい?結城さんから頂いた器だから大事にしたくて』
ぽつりとこぼれたその人の名前。
名前を呼ぶ響きの柔らかな熱は思わず皮肉めいた言葉がよぎったが胸にしまっておく。俺はまだ彼女に嫌われたくはないのだ。
「なら今日の昼過ぎにでも取りに行くんで」
了承の言葉と共に電話を切り、知り合いの漆屋に電話をかける。




(ああまったく、うちのお姫さんの心はずっと向こうにあるのは嫌なものだ)


鯖江と福井の話。ぬるいけど鯖江→福井。

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