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コーギーとお昼寝

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拝啓、金子直吉さま3

そもそも、鈴木商店は小林製鋼所を買う意思はなかったという。
西宮紡績の買収に失敗して心ここにあらずの状態だった金子直吉は、経営不振に陥った小林製鋼所の買収話を持ち掛けられて深く考えずにそのまま頷いてしまったのだという。
それを知ったのはだいぶ後になってからの事だったが、それを感じることはほとんどなく育てられた。
「台湾で手に入れた絹のワンピースなんだが、着てみるかい?」
私が連れてこられて3日目の朝、その人は私に鮮やかな赤いワンピースを差し出してくる。
南方の絹と染料で染められた鮮やかな色彩のそれは私にはまばゆく見えた。
「出会った時に着ていた着物、だいぶ汚れて来ただろう?」
「いいんですか?」
「もちろん、このヒールはお家さんから。ワンピースを着るなら靴も西洋のものがよかろうって」
金子直吉という人は欲の薄い人であったので、こうして私にものをくれることは何度かあった。
私はその分け与えられた衣類の鮮やかな色彩を気に入って大切に大切に着ようと心に決めていた。

***

それから一週間後、お家さんは私を突然部屋に呼んだ。
台湾土産だという黒糖を私に一つ手渡してきて、私はそれを舐めてみる。
(……なんだか、不思議な甘さ)
どこか癖のあるのに棘のない優しい甘さがする。
与えられた黒糖の甘さを存分に味わってから飲み込むと、お家さんがふいに話を切り出した。
「あなたに新しい名前を渡そうと思ってね」
「はい?」
「あなたはもううちの子なのだし、これから新しい道を行くのだから新しい名を持つべきだと思ったのよ」
(人に買われるという事は、こういう事なのか)
それは生みの父の名を捨てよという宣言だった。
一度は死ぬことを覚悟した身だ、名前の一つぐらい仕方のない事だ。
「……はい」
するとお家さんが折りたたまれた紙を渡してくる。
「これが、あなたの新しい名前」
ひらり、と紙を開く。


「神戸製鋼所……」

「そう、神戸製鋼所。あなたの新しい名前」
その人はふっと微笑みながらそう告げた。


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