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コーギーとお昼寝

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矢印と片思い

長い休みを貰ったんですよ、とその人は笑いながら言った。
電話越しに聞くその声に私の胸が大きく弾む。
『その休みを使って、そっちへ行ってもいいですか?』
「……是非!」
電話越しにそう告げると「じゃあ、計画が固まったらまた電話しますね」と告げて電話が切れる。
カレンダアで赤い丸を付けてから下に結城さん来福と書き記す。

矢印と片思い

福井駅の改札口に立ちながら、結城紬の彼の姿を探す。
「久しぶりです、」
「いえ、こちらこそ」
仕立ての良い紺の結城紬の上に黒の外套、皮手袋と帽子のその姿は銀幕のスタアのようだ。
矢羽柄の秩父銘仙の上に長羽織という和装にしておいたのは正解だったようだ。
「椿のブローチですか」
「はい、熊本さんから頂きました」
「……ああ、姉妹都市協定結んでいたんでしたっけ。」
肥後椿のブロウチを見て「奇麗ですね」と呟く。
服装を褒めてもらえたことは嬉しい、わざわざ永平寺町に相談した甲斐があった。
「ああそれと、お土産です」
手渡されたのは朱色のスカアフだ。私のために選んでくれたのだろう。
「いま、巻いてもかまいませんか?」
「私は構いませんよ」
袋からスカアフを取り出して首に巻くと、植物の香りがした。
一緒に入っていた紙によると植物染めの絹のスカアフだというのでこの植物の匂いは染料の匂いなのだろう。
「似合いますね」
嬉しそうに笑うその顔は一等美しい。

****

この街の冬は雪か曇りが常で、今日も空は灰色だ。
見慣れぬ裏日本の冬を興味深げに眺めながら自家用車で北ノ庄城郭跡を目指す。
「福井には何度か来てますけどやはり関東とは違いますね」
「確かにそうですね」
「手土産に雪なんか持ち帰っても面白そうですね、きっと筑西が大喜びしますよ」
「素敵だと思います、ついでに越前ガニも送りますよ」
「おや、大盤振る舞いですね。カニを買っていく約束は既にしてあるのであとで市場に案内してくれますか?」
「はい」
赤信号で車が止まる。
助手席に座る彼に何を聞こう?何を話そう?と思案するが、話したいことも聞きたいこともたくさんあるのに口も頭もうまく動かせずに空転していく。
まじまじと見ていると驚くほど美しい人だ、と思う。
すっとした目鼻立ちの美しさ、黒曜の瞳の金属にも似た輝き、東国武士の武骨ながら美しいたたずまい。その視線はまっすぐに福井の街並みに向けられている。
「信号変わりますよ」
「ああ、すいません」
意識を車の運転に移す。
青信号が爛々と輝いて車を再発進させた。
「……福井は、美しい街ですね」
「はい」
「いつか、小山さんを連れてきて良いですか?」
自らの想い人の名を告げる声は微かに熱を帯びている。
結城さんの特別になりたいと願いながらもそれは出来ないことだと、ただその一言の声色で思い知らされる。
そう告げる彼に私はただ「はい」と呟くのみだった。






結城さんと福井ちゃん。叶わぬ恋に身を焦がすさまは可愛いと思っています。

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この木なんの木元気の木

『とてもつらい』という兄上からのメールを受け、兄の自宅を訪ねると机に突っ伏したままよどんでいた。
「……何してるんですか」
「ひたちなか、日立製作所の名称が消えるかも知れない」
「はい?」
指さしたのはある新聞記事だ。
東芝とシャープの文字に続き日立の文字が続く。
「いま、東芝とシャープが経営立て直ししてるだろ」
「なんか白物家電事業の統合をするって話でしたよね?」
「そこに日製を加えるって」
「いやでも統合するのは白物家電事業ですよ?法人向けやエレベーター事業は温存できるはずですし、日立の研究所や病院(※)が無くなるわけではないですし」
「まあね。ただ、日製の白物家電が無くなると知名度が落ちるし地域経済にも打撃が大きくて……」
その時の日立の目は死んでいたのは言うまでもない。




※日立総合病院やひたちなか総合病院のこと。元々日立製作所の企業立病院としてのスタートなので何かとつながりがある。

今回の話のソース:http://this.kiji.is/62952046391902213?c=39550187727945729&s=t
日立の白物家電事業の統合、どうなるんですかね。

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心音の向こう側

恋に落ちる音と言うものが本当にあるのなら、きっとあの時鳴り響いたのだ。
「よろしくな、輪西」
手を伸ばして微笑んだ釜石の瞳は黒々と美しい輝きを湛えていた。
初めて出会った仲間はこんなにも美しい存在だったのだと思うと涙さえ出てきそうで、手を伸ばしてグッと握り返す。
「……よろしく!」
あの日からずっとあの姿に恋をしている。

心音の向こう側

「釜石、」
「うん?」
あの日から100年以上の月日が過ぎ、戦争も混乱も成長も遠ざかっていった。
だと言うのにその瞳の上質な石炭のような輝きは一つも失われずそこにあり続けていた。
ビルだらけの東京は冬の冷たい雨に打ち付けられ、ビルと同化した空は部屋の中にいても圧迫感があった。
「100年なんてあっという間だねえ」
「おう、そうじゃな」
「……八幡と、付き合ってるの?」
「藪から棒にどうした」
「前から聞きたかったから」
八幡が釜石に師弟愛以上のものを抱いていることは知っていた。
そしてそれが叶わなければいいと思い、この恋を叶えたいと思っている八幡の姿を恨んでいたすらいたくらいだ。
釜石と僕はただの友人でしかなく、それ以上になる事が出来ないことをこの100年以上の付き合いで悟っていたから余計に。

「付き合わんよ」

釜石がさらりと告げるので、僕は喜色を抑えた声色で「そうなんだ」と答える。
「神様に恋は出来んからな」
そう思うだろう?と言う目でこちらを見てくる。
ああまったく、君は罪深いね。
「どうだろうね」
100年の恋の心音はゆっくり死へ向かっていた。




恋を拗らせた室蘭と誰にも恋にしない釜石の話。

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たぶん今日はこういう会話してた

八幡「東福岡優勝しましたね」
釜石「優勝は東海大仰星じゃろ?」
八幡「いやなんでそこで東海大仰星なんですか」
釜石「いやだって高校ラグビー見とったんじゃろ?」
八幡「私高校サッカー見てたんですけど」
釜石「えっ……高校ラグビー見て『この子うち来ないかな』とか思わんのか?」
八幡「その理屈だと男子バレーや高校野球見ても同じこと考えますよね?」
釜石「ほうじゃな……」
八幡「でしょう?」



その頃の神戸
神戸「男子高校生の筋肉はいいものですわね……」
加古川「気持ちは分かるけど仕事しないと……」


半分ぐらいついったで呟いたネタです。

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僕らが三人だったころ

釜石のうちには古い炬燵がある。
100年近く現役のそれは壊れては修理し、時々新しい布団に変えたりしながらも未だに釜石の家で現役で使われている。
「いい感じに寒くなってよかったな」
「ここのところ暖冬でしたしね、鍋日和が無くて寂しいくらいでしたし」
「室蘭のとこだと暖冬でも関係ないじゃろ?」
「そうでもないよ?身体が寒さに慣れてる分調子が出ないくらい」
八幡のお手製ポン酢のたっぷり入ったとんすいに白菜ともやしと鶏肉を突っ込んで、思い切りほおばれば野菜の甘みと鶏の油が最高に美味しい。
「でもこの三人で食べるのも久しぶりですね」
「あー……言われてみればそうじゃな。日鐵時代はよくあったのにな」
八幡と釜石の言葉で、最後に三人で食べたのはいつだったかとぼんやり思い出す。

最初に3人で食べた日は覚えている。
日鐵という組織が生まれた少し後、たしか2月頃だっただろうか。
『ちょっくら築地まで散歩しとったらいきのいいタラを見つけたんで買ったんじゃが、みんなで鍋でも食わんか』
『あなたが作ってくれるのなら』
『言い出しっぺがやらんでどうする、野菜も買ってある。輪西も手伝ってくれるか?』
『もちろん!』
あの時は、八幡と釜石が楽しそうに笑いながらタラと野菜の鍋を作って食べたんだった。
それ以上のことあまり覚えていないけれど、あの時が確か三人で一緒に食事をした最初の日だった。
それぞれてんでばらばらのところに暮らしているからあの頃は三人で食事するのは東京に滞在する数週間の間くらいで、それがいつも少しだけ楽しみだった。

「……なんか、昔より一緒にご飯食べる機会増えてない?」
「そりゃそうじゃろ」
「いまうちの身内何人いると思ってるんだか……」
あれから長い月日を経て僕らにはたくさんの仲間ができた。そして身内が一人増えるたびにお祝いをし、全員が集まるたびに皆でごはんを食べた。
記念日が増えればこうして顔を合わせる機会も増えた。
(そっか、そういう事か)
「まあ飯はみんなで食う方が寂しくないからな」
釜石が嬉しそうに笑う。
「それもそうだね」





私の中でこの三人が熱いのでよく書いています。
日鐵時代とか官営八幡時代とか書きたいんですがまだ脳内処理が追いつかないので書けたら書きます。
あと製鉄所擬人化のタイトル決まりました(謎のお知らせ)

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