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コーギーとお昼寝

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神様は恋に落ちない:3

それから一月ほど後、東京から役人が来た。
「製鐵合同、ねえ……」
以前から話は来ているが自分がいいとか悪いとか言えるものでもないことは自覚していた。
なんせこの製鐵合同は国策であり、中小企業がそうそう断れるものじゃあない。
そのうち法律を作ってでも一まとめにするつもりだというし、断る気もわかない。
「神さんはお気に召さないですか」
「いや、どうせ国策なら断りようがないと思ってな」
「そうでしたか」
深くため息の一つも吐けば隣にいた所長が切り出す。
「わざわざ東京からありがとうございました、せっかくですし一緒に酒でも飲みに行きませんか」
「そうですね、」
役人の頬が微かに緩むのが見えた。

****

料亭には芸者も呼ばれ、賑やかな宴が催される。
たま菊はこちらを見つけると嬉しそうに笑うので、こちらも軽く頬を緩ませた。
ピンとたま菊が三味線を鳴らせば「では、鬢ほつをひとつ」と告げる。

鬢のほつれは 枕の咎よ
それをお前に疑られ
勤めじゃえ 苦界じゃ
許しゃんせ

少し前に流行った小唄を美しい声と三味線で歌いあげ、こちらに視線を向けてぺこりと頭を下げる。
「ちと用を足してくる」
周囲の人にそう告げたのち、たま菊に軽く視線を向ければこくりと頷く。
春の終わりの心地よい夜風を浴びながら待っていれば、たま菊がやってくる。
「いい声をしとったな」
「ありがとうございます、えっと、」
「好きなように呼んでくれ。」
「……でしたら、凛々千代さま、でどうでしょうか。」
「どうして?」
「今まで出会ってきた人の中で一番凛々しいお方ですから」
凛々千代という音の響きがすとんと腑に落ちた。
今まで付喪神として名前のない存在であった自分が初めて得た名前であった。
「なら、たま菊の前ではわしは凛々千代じゃな」
「では凛々千代さま、先ほどの小唄はどうでしたか?」
「とても、奇麗だった」
そう告げるとたま菊は目を大きく見開いて、大きな笑みを浮かべた。
たま菊の大きな瞳に月明かりが反射して異国の宝石のように輝き、その瞬間に「この娘を手放したくない」と思った。




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