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コーギーとお昼寝

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神様は恋に落ちない:6

1933年、3月3日。
遠雷のような音を聞いた時、脳裏をよぎった嫌悪感はその日まさしく正夢となった。
のちに昭和三陸地震と呼ばれる津波に釜石の町はさらわれた。
残されたのはまっさらな三陸の大地と生き残った人間たちだけであった。

****

1933年、5月。
製鐵合同の誘いを受けた11社による集会が東京で開かれることになり、そこに自分も呼び出された。
「……なんでうちまで呼び出されるんかしら」
ぽつりと隣に座ってにいた美女が関西訛りで呟いた。
鮮やかな真紅のロングドレスに身を包んだこの豪勢な美女を見て、はてこれは誰だったかと思い起こそうとするが名前が出てこない。
「釜石さん、去年の出雲以来ですわね」
「あ、ああ……」
「そちらは大変だと聞いてますけど、大丈夫でした?」
「まあ色々、えっと、」
「あら、私ですわ。神戸製鋼所です」
そう名乗られてようやく思い出す。
この頃の神戸は苦労の多かった過去への反動のように華やかな服装や令嬢のような言葉遣いを好むようになっていた。
現在はこの派手好みも少し落ち着いたが、この頃は育ての親である鈴木商店の影響か南国風の鮮やかな色をよく着ていた。
「少し見ない間に痩せましたか?」
「そうかも知れんなあ」
「私で良ければ話聞きますわよ?」
どうぞ、と煙草を差し出してくるのでありがたく譲ってもらう。
燐寸で火をつけて煙草をひと口飲めば少しだけ気が緩んだ。

「……恋仲の女が、津波に呑まれて行方知れずでな」

ぽつりと呟くと神戸は静かに頷いた。
「相手は人の子なんだが、よぉ笑う奇麗な女でな。歳はまだ15だった。
今だに生きとるのか死んどるのか知れん、そのせいかこの頃どうも頭が回らんくてな。いちおう人前では普通に振る舞っとるつもりだったんじゃが」
「それはお辛かったでしょうね」
「辛いってもんじゃない、悪い夢を漂っとる気分じゃ」
譲ってもらった煙草が一本燃え尽きる。
神戸はただ静かにその会話に耳を傾けていた。
やがて会議室の戸が開きつかつかと八幡が入ってくる。
「全員揃ってますね?それでは、会議を始めます」



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