Twitterでイチマルさん(@10_plus10 )からリクエストを頂いて書いた此花区と此花ネキのお話。
『今晩空いてる?』
短いメッセージをぽんと送ってみる。
すると即座に届いたレスポンスは『空いてるよー!』という軽やかなものだった。
『なら、今晩カレー食いに来ない?作りすぎた』
一緒に大鍋いっぱいのカレーの写真を送ると『美味しそうやん!行く行く!』という明るい返事が来た。
『ついでにちょっと色々持ち込んでええ?餃子とかヨーグルトとか』
『じゃあカレーとサラダだけ準備して待ってる』
***
夜6時半過ぎ、独身寮のドアを軽やかにノックした後で「こんばんわー!」と明るい声と共に少女が飛び込んでくる。
「これお土産のひとくち餃子とヨーグルト!あとビールも買ってきてん!」
「結構持って来たな……」
焼きたての餃子の詰まったタッパーとヨーグルト、そして缶ビールが二本。
それらをほかほかのカレーライスとサラダの横に並べてから「乾杯しよ!」という声がかかる。
「「乾杯!」」
缶ビールを一口煽ると、苦みと炭酸がすっと抜けていく。
「カレー頂きまーす」
「どーぞ」
「美味しいけど、これちょっと辛ぁない?」
「そう?あたしこれぐらいの方が好きだからなあ。少し辛いならヨーグルト混ぜれば?」
「……そうする」
大さじでヨーグルトをすくって混ぜてからふたたび口に運ぶと、「うん、これぐらいかな」と呟いた。
「そう言えば、何で今日はうち呼んだん?」
「んー、まあ気分かな。弟呼ぼうと思ったら断られたのもあるけど」
「せやったん?」
「此花も色々忙しいかと思ってね、私には土地の方の人らの事情分かんないからいつ暇なのかも読めないし」
「年末年始と年度末以外なら割と何とかなるけどね、そう言えば製鋼所と一緒にご飯食べるの久し振りやない?」
「ユニバの完成記念パーティーの時以来じゃない?顔合わせたりすることはあっても一緒にご飯食べるのってなかった気がする」
ぼんやりとした記憶をほじくり返してみると、たぶんその時以来のような気がする。
ユニバが出来たのはもう15~6年くらい前だからかれこれ15年ぶりという事になる。
「そっか、そりゃあ久し振りって感じにもなるよねえ。……あ、このドレッシング美味しい」
「従業員が家族旅行のお土産に買ってきてくれたんだよ」
「へぇ、何のドレッシング?」
「広島のレモン100%ドレッシング、冷蔵庫に一本余ってるけど持ってく?」
「持ってく!」
「カレー終わったらな。でも点天のひとくち餃子久し振りに食ったかも」
「そうなん?」
「ここんところ餃子っていうと八幡鉄鍋餃子しか食ってない気がして……地元が推してるからあいつも推してくるんだよな……」
最近八幡区が鉄鍋餃子推しを始めたとかでイベントごとのたびに八幡が鉄鍋餃子を送ってくるのである。
美味いのだけどそろそろ別のもんにしてくれ!とメールしたら『じゃあお歳暮は石炭のネックレスでいいですか?』というメールを貰った。石炭のネックレスって何だよ嫌がらせか?
「製鋼所も色々あるんだねえ……」
「まあね。此花は?」
「うち?最近あった事っていうとなんやろなあ……あ、昨日大阪市全員集まっての会議があったんやけどその内容が真田丸やった」
「あー、船場とか盛り上がってそうだよな」
「真田丸関連の施設巡りのパンフレット作ったから主要駅とか施設に置くよう言われてんけど、うちちっともかすらへんのよなあ」
「まあそれはしょうがないだろ。そんなこと言ったら上町台地以外はほぼ無関係って話になるしな」
「せやねえ……ま、真田丸のついでにユニバ!ってすればええかな」
「その意気だな」
「なんか元気出た!カレーお代わりしてええ?」
「いいぞいいぞ、いっぱい食え!」
嬉々として台所の炊飯器を開けてご飯を一杯盛る此花を見ながら、ふと昔のことを思い出した。
まだ幼い姿だった時の此花区のまっすぐな瞳は、今も変わらない。
(……でかくなったもんだね)
これが母性って奴なんだろうか、なんて思ってしまう。
「なにニヤニヤしてん?」
「いや、何でも?」
大盛りのカレーを口いっぱいに頬張った此花区を見ながら、そんなことを考える。