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コーギーとお昼寝

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初恋泥棒

にのぜさん(@2_no_ze )にリクエストを頂いて書いた此花→新居浜×住友(財閥)
新居浜さんはにのぜさんちの子です。



あんなことを言ってしまったのは、久しぶりに新居浜さんと顔を合わせて一緒にお好み焼きを食いながら濃い目のチューハイなんか飲んでいたせいなのだと思う。
「そう言えばさぁ、」
「うん?」
「あたしの初恋って、にーはまさんだったんだよね」
「えっ?」
新居浜さんの驚きの声を尻目に、私の脳内は深い深い過去へと誘われていた。

****

私が子どもだった頃、新居浜の街は住友家と鉱山のもたらす富によって賑やかであった。
父は私の手を引いて一人の人の前で止まった。
「新居浜さん、」
「おう、銅伸場ひさしぶり!」
「ほんまおひさしぶりですわぁ、きょうはうちの娘を連れてきたんです」
軽やかな大阪訛りで話す父の横で私はその人の顔を美しいと思った。
いま思えば鉱山開発で黒ずんだ肌やギザ歯など決して美しくはないのだが、彼こそが住友家と共に生きる地なのだというある種のフィルターのようなものがかかっていたような気がする。
でも、一瞬全ての音が消えて魂の震えを覚えたのも事実なのだ。
「娘なん?俺は新居浜、よろしくな!」
にこりと笑いかけて手を伸ばした彼と私は軽く握手をした。
「新居浜さん!こんなところにいたんですか?」
「あ、すみちゃん。ちょっと醬油切れたから買いに行こうと思ったら銅伸場に会ってつい」
「財閥さん、そういう事ですから新居浜さんをあんまり怒らんであげてください」
「……分かってますよ。銅伸場、醤油を買って来てからうちに来て下さい」
「はぁい。ほな、行こか」
財閥さんが父に小銭を渡すと新居浜さんの手を掴んで家へと歩き出す。
父が「醤油蔵に行ってからやなあ」と苦笑いをこぼしながらも、私は去っていく二人の背中をじっと見つめていた。
「ととやん、」
「うん?」
「新居浜さんって、美しい人やんな」
「…………あかんよ、あの人は財閥さんのものやから。人のもんに手ェなんか伸ばしてもろくなことにならんで」
父は私にそう言い含めた。
私が新居浜さんに胸をときめかすたびに、繰り返し繰り返し言い続けた。
財閥さんの悋気に触れないように幼い娘の淡い恋心を隠しながら。







「ま、そのことはさいきんになってからきづいたんだけどね」
それからだいぶ後になって自分が一人の女に惚れていることに気付いた。
彼女の横には豪快で筋の通った男がいて、やがて二人は夫婦になった。
「あたしが好きになるのは、いっつもだれかにこいしてるひとばっかりだ。きっとそうなったのは、にーはまさんのせいだよ」
「このちゃん、ちょっと酔ってない?」
「かもね」
私の初恋を盗んでいった男は心配そうにこちらに水を差しだした。

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