唐突に結城さんが福井に来た。
たまたま駅のほうに用事があって立ち寄らなければ絶対に把握していなかったことだった。
「……事前に連絡していただければ案内したのに」
「今回は独りで気楽に回りたかったんですよ。いつもこっちに来るたびに車出して貰ってますし、色々気を使わせるのも気が引けましたから」
案内所のカフェでコーヒーを飲みながら結城さんがそんな事を言う。
私は別に無理をしているつもりは無かったし、結城さんが来てくれるなら大歓迎だったから車ぐらいいくらでも出した。
「ちなみにどこに行くんですか?」
「永平寺と東尋坊、あと福井城址と養浩館に。いつも仕事で来てるから意外にちゃんと見れてないんですよね」
「ふたりに連絡入れて案内してもらいましょうか?」
「大丈夫ですよ。今回は完全に休日で来てるんです、気にしなくていいんですよ」
結城さんはまるで子供をなだめるようにそう言い返してくる。
この人の前で私はまだ子どものようだ。
(……この人に大人に見られたい)
いつから生きてるのかもよく覚えてないというような人に大人に見てもらえるのは難しい。
「コーヒー、ごちそうさまでした。そろそろバスが出るので行きますね」
空になった器を全部自分のお盆に乗せて片づけようとするその気の使いかたも好きだと思う。
「あの、結城さん」
「はい?」
「帰りの新幹線の前にもお茶しませんか、結城さんから見たこの街の印象聞いてみたいです」
「もちろん」
その時は甘いラテなんかじゃなくてブラックを飲んで見せよう。
私がほんの少しでもこの人に並ぶために。
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福井ちゃんと結城さん。
先日福井旅行に行ってから書きたいなあと思ってたのですが、ちょっと具合悪くしたりしてたのでちょっと遅めのネタです。