「知ってる?いちご大福って倉敷発祥なんだよ」
私がそんなことを言いながらおやつのいちご大福を差し出すと「そうなの?」と聞いてくる。
「うん、児島の方に発祥のお店があるって聞いたからここ来る前に寄り道して買って来たんだよ」
金曜日の昼下がり。
まだまだ終わらない仕事の山からの短い現実逃避にと買って来たおやつとコーヒーに福山は目を輝かせた。
現場仕事のために着ていた作業着を脱ぐと汗ばんだ皮膚にシャツが張り付いておっぱいの大きさがハッキリわかるような状態になってしまい、周りの若い男の子たちがソワッとするのが分かる。
男だらけの職場で福山がモテるのはわかるけど、私のお嫁さんなのであげませんよーだ!と思い切りあっかんべしてやるとすいませんと言うように彼らは視線をそらした。ふむ、あっさり引いた子たちは許そう。
福山が力仕事で汚れた手指をしっかりウエットティッシュで拭うと箱から丁寧にいちご大福を取り出す。
「美味しそう……」
「でしょ?」
福山がそんな風に笑う顔が、私は一番好きだ。私の大好きな愛しのひと。そして生まれた時からずっと近くにいた一番近しい人。
べつに葺合や西宮のことが嫌いな訳じゃないけど、私にとってずっと近くにいてくれたのは同業他社でも隣町にいた福山だったのだ。
「先食べていーよ」
「……何か企んでない?」
「企んでないよ」
粉を落とさないように気をつけながら福山が大きな口を開けて大福を齧ると、びっくりしたように目を開いた。
メガネの向こう側の眼差しはこの小さなサプライズの成功を意味してる。
「チョコクリームのいちご大福だ……」
福山のつぶやきに「そういうこと♡」と答えると、福山はカレンダーを見て「今日だったわね、バレンタイン」と呟いた。
製鉄所そのものである私たちにまともな休みなんてありゃしない。だけど恋人同士としてバレンタインにいちゃつく権利ぐらいはあるはずだ、と言うかそうじゃないと誰とは言わないけどバレンタインに合わせて北九州から釜石に飛ぶどっかの誰かさんの事を踏まえたら不公平だと思う。
「チョコ、また用意し損ねちゃった」
「いいよ別に、これからもずーっと私が責任もって福山のためにチョコ用意するんだから。ね?」
いちごとチョコレートのように最高の組み合わせの私達はこれからもずっと横に居続けるのだ。
水島と福山。
ピクグラバレンタイン参加作品でした。