「ようやっと今年が終わるなあ」
恋人の呟いたセリフに「どの口が言うか」と呟いた。
「こっちは入れ替え戦、そっちは順位決定戦が残っとろうが」
「それは年明けてからやんか」
たまたま同じ会場で試合が被ったからクリスマスイブを一緒に過ごそう、などという甘っちょろいことを言うことに関しては思うところも多いがそうでもないと理由もないのは事実だ。
「……ほんとは大阪府警対策せんといかんのになあ」
「言うても入れ替え戦は鏡開きも過ぎてからやろ?俺みたいに正月開けてすぐでもないしちったあ息抜きしても罰も当たらんって」
「お前なあ」
「それに、好きな相手とクリスマスなんていつもなら過ごせんしな」
お互いの立場を踏まえればそれは確かにそうだった。
試合だ仕事だと忙しい年末に遊ぶ余裕など本来はひとかけらもあるはずがなく、特に今期はお互い酷く精神的に煮詰まることも多かったのも事実だ。
「それに、もし俺が死んでも最後の思い出になるしな」
「お前が言うと洒落にならん」
「もちろん洒落な?来期までは無事にやれそうやしな」
そんな事も言えるようになった辺り少しはましになったらしい。
夜の名古屋の街は人が多く賑やかで、誰もが華やいだ夜を楽しんでいるように見えた。
「……次の試合は勝ってくれ」
あん人の引退試合が負け試合だなんて見てられん、と呟いた。
そう言えば彼はこの男の元にいたという事を思い出す。
(確かに、あん人の最後の試合が負け試合なのはいけんなあ)
「それならお前も勝つつもりでおるじゃろう?確かー……相手は二子玉川の羊のじゃろう?そうじゃないと釣り合いがとれん」
「せやなあ、お前が勝つなら俺も死ぬ気でやるわ」
スティーラーズとシーウェイブス。
彼らの言うあの人は今季引退発表した現役最年長選手です。