「練習試合の後、時間は空いてるか」
ダイナボアーズさんがふと思い出したようにそう問いかけてきた。
それは練習試合前の軽い打ち合わせを終え、さあユニフォームに着替えようという矢先のことだ。
「空いてますけどどうしてですか?」
「父が昼間ケーキを買って来たんだが一人では食べ切れそうにない」
「ああ……でも珍しいですね、ダイナボアーズさんがお父さんの事言うの」
「父は忙しい人だからな、試合も見てくれることも稀なくらいだ」
「単純に顔を合わせる頻度が低いってだけでしたか」
「国防を支える身である以上多忙はやむなしだろう」
諦めを含みつつも父親への憧れと誇りを強く滲ませた声色は少しだけ気持ちが分かる。
僕だってキヤノンという会社を愛している。そしてその化身たるあの人の事も。
「せっかくですし、夕飯一緒に食べましょうか。ピザが良いです」
「ピザか」
「お嫌いでしたか?」
「いや、構わない」
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練習試合後、僕は彼の私室に招かれ大きなピザとサラダを二人で分け合って食べながら練習試合の反省会をした。
「トップリーグとして今回の結果はちょっと不甲斐ないものがありますね……」
「こちらとしては楽しかったがな。そろそろケーキに行くか?」
「はい、ついでにコーヒーも頂けますか?」
「ボトル入りの物で良ければ」
ボトル入りのコーヒーをなみなみとマグカップに注ぎ、冷蔵庫から出て来た白い箱がどんと食卓の真ん中に置かれる。
そうしてゆっくりをふたを開ければ、白いクリームに青と淡い緑の入ったトップリーグ公式球と同じデザインの立体的なケーキがお出まししてくる。
「……実物大ですね」
「ああ」
これを丸々一個は甘党でもない限り一人で食べるにはいささか大きすぎる。
僕も特別甘いものが好きな訳ではないし、目の前の相手の反応を見るに同感なのだろう。
「父が言っていたが、今日はラグビーの日らしいな」
「ええ、今日がイギリスでラグビーの原型となったスポーツの生まれた日だと言われてますね。前にラグビー発祥の学校行ってませんでしたっけ?」
「ラグビー校には行ったがさすがに日付までは覚えてない」
「まあそうですよね」
フォークを借りて隅の方を一口食べると生クリームの甘さとスポンジのふわふわ感が広がり、間に挟まれた苺やブルーベリーの酸味がクリームの甘さを引き締めてくれている。
「あ、美味しいですねこれ」
「本当だな」
ケーキを食べながらラグビーにまつわるトリビアを語り、それをダイナボアーズさんは静かに聞いている。
(まあ、これもシーズン前だからできる息抜きですよねえ)
今シーズンのトップリーグは短期決戦だから気を抜ける瞬間は例年よりも少ないだろう、ましてトップチャレンジリーグは降格組が2チームあって去年より多い。
ワールドカップ前の厳しいシーズンを生き抜く前に、ケーキで英気を養うぐらいきっと許される。
ラグビーの日のイーグルスとダイナボアーズ。