今朝の北海道地震絡みのお話です、不快な方はブラウザバックで。
フェリーに揺られて会いに行った先で、室蘭は床に座り込んでいた。
「……釜石、どうやってここに?」
「フェリーで来た、幸い船は通常運行だからな」
「そう言えば宮古から室蘭までのフェリーあったね、あれは動いてたんだ」
「ああ、お前さん何残ってるか分からんからありったけの生活用品持って来た」
大判の風呂敷やリュック、大判の手提げ袋に入るだけ詰め込んだ被災時に役立つ緊急食糧や灯りの類を床に広げればありがとうねと笑った。
ふいに室蘭の左足膝近くまでが赤く焼け爛れていることに気付き、船の中で見た製鉄所の火事のニュースを思い出した。
「……日鐵釜石?」
後ろからそう声をかけてきたのは水の入ったボトルを抱えた美青年・日鋼室蘭だ。
恐らくどこかの配給にこっそり混ざって飲用水を手に入れてきたんだろう。
「兄ちゃん、釜石が来てくれたんだよ」
「ああ……わざわざすいません」
「気にせんでくれ、船は動いてるからな。あと食料の心配はいらんぞ、自分で持って来た」
八幡がこの内で送ってきたくろがね堅パンやインスタントのおかゆやらを取り出せば二人の表情が緩む。やはり日持ちする買い置きがあまりなかったのだろう。
「日持ちしない買い置きがあるならそっちを先に食べとけ。あと職員たちにも気ぃ配ってやれよ、わしら以上に疲れとるからな」
「もちろん、俺も足の火傷がなければ仕事するけど事務所にいると気ぃ使われちゃうからさ」
「俺も自分の仕事があるから可愛い弟に気を遣う時間もないしで……」
「日鉱は日鉱の仕事をこなせばいいさ、2~3日こっちにいるから室蘭の面倒ならわしが見れる」
「すいませんね、日鐵釜石さん」
「困ったときはお互いさまってな。あと欲しいもんあったら適当に持ってってくれ、返してくれなくても構わん」
「懐中電灯借りてきますね、これ太陽光電池ですか?」
「おう、船で充電しといたから十分使えるぞ。あと手回し発電も出来るし携帯も充電できるから自由に使ってくれ」
そうして懐中電灯を手に兄の方は外へ向かう、まだやるべきことが残ってるのだろう。
夜は既にとっぷりと更けているが眠る気になれないのだろう。
その手を取って、窓の外に浮かぶ夏の終わりの星を眺めている。
灯の消えた町では星は煌々と輝いて夏の大三角形と秋の四辺形がともに空に浮かんでいる。
「室蘭、お前さん眠くなったら寝ていいぞ」
「うん」
こういう時一番欲しいのは支えだという事を知っている。
火傷した足を、壊れた身体を、疲弊した心を支える優しい手だ。
自分もまたその優しい手でありたいと、願う。