まだ暗い冬の早朝、竹灯篭の中にろうそくの火が灯っている。
ここにいるほとんどの人があの30年前の朝を覚えているのだと思うと、30年前というのは思いの外最近の事なのだと気付かされる。
「……もうすぐよ」
隣にいた姐さんが俺にそう声をかけると公園に「黙祷」という合図が響く。
その日喪われたあらゆる命に黙祷を捧げながらこの30年のことを思い返す。
この30年で理不尽に喪われていったものは多く、その中には人間が引き起こした過ちによるものも多かった。
「姐さん、」
「うん?」
「俺らは無力やねえ」
「……そうね。でも私達には知恵があり、動かせる身体があり、回せるお金もある。必要な時にはそれを差し出して理不尽に対抗していくしかないと思うわ」
あの日、ラグビーのために鍛えられた肉体を活かして何度も瓦礫をどかした。
そうして助け出した後にさまざまな現実に耐えかねてこの世を去った、と風の噂に聞いたこともあった。
「姐さん」
「なに?」
「俺はこの街の人にとっての希望でいられたんやろうか」
そう問えば姐さんは少し考えてからゆっくり口を開いた。
「この街の人全てとは言わないけど、少なくとも私と加古川、そしてその周りにいた人たちにとっては希望そのものよ」
「もっと色んな人の希望でありたかった、って言うのはわがままやろか」
「それはちょーっと難しいけどあなたを見て『もう少し生きてみようか』と思った人はいるんじゃない?あなたを見て1人でもそう思えた人がいれば、それはあなたがいる意義を十二分に果たしてる」
姐さんはそんなふうに俺に言う。
「せやったら良いんですけど」
「大丈夫よ。ところで明日試合だけど寝不足は辞めなさいね?」
「帰ったら寝るんで大丈夫ですよ」
「じゃあ帰ったらよく眠れるようカモミールティーでも淹れましょうか」
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スティーラーズと神戸ネキ、30年目の朝に。