12月31日の夜を今年は職場で迎えることになり、年の瀬らしいものを作って職員さんに振舞うことにした。
鍋用の鶏肉や内臓と焼き豆腐・葱・春菊・人参をすき焼きのたれで煮込んでいるとポケットに入れていたスマホが震えた。
『名古屋か?』
「釜石さんどうかしました?」
『お歳暮の酒が美味かったからそのお礼にな』
釜石さんには毎年お歳暮を贈っているが、メールやラインでなく電話を寄こしてきたという事はよほど気に入ったのだろう。
「そういうことですか」
『あー……そういやお前さん仕事中とかじゃないよな?つい勢いで電話したが』
「大丈夫ですよ。かしわの引きずりを煮てたとこなんで」
『かしわのひきずり?』
釜石さんが不思議そうにそう聞くのも無理はない。
かしわの引きずりはこの辺特有のものらしく大同特殊鋼さんやトヨタさんといった名古屋周辺の企業さんはよく振舞ってくれたが、名古屋からちょっと離れると全く知らないという顔をされるのだ。
「鶏のすき焼きですよ、やり残しや引きずってることを年内の片づけるという意味で食べるんです」
『すき焼き食ってそば食うのか、ちょっと多くないか?』
「仕事で空腹のときにはちょうどいいですよ」
見ていると鍋がくつくつと煮えてきて、すき焼きの甘辛い香りがふわっと漂ってくる。
蕎麦は茹でてあるやつを買ったから暖かいつゆと冷凍天ぷらを乗せればすぐに終わるので、かしわのひきずりが煮えたら大晦日の晩餐の出来上がりだ。
「釜石さん、そろそろ完成するので電話切りますね。よいお年を!」
『ああ。名古屋んとこの職員さんたちにもよろしく頼むな。よいお年を!』
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名古屋と釜石。ぎじスクタグ祭り用の作品でした。
かしわの引きずりについては
こちらを参考にどうぞ