仕事から練習までの短い隙間時間に、香椎浜に向かうとレッドスパークスは海を見ていた。
小さく何かを口ずさみながら曇りなき空と美しく輝く芝生を眺めていた。
「レッドスパークス」
「ブルース、どうしたんですカ」
「……天神で仕事があったけんお前さんの顔ば見に来た」
それは嘘じゃなかった。ただ会いに来たのは一つの気がかりが合ったせいだった。
レッドスパークスの目はいつもの底抜けの明るさと違う薄暗い色を帯びていて、その目には見覚えがあった。
この世を去った神戸の友と最後に会ったときと同じ眼差しだ。
「そうでしたカ、てっきりワタシ心配されてるのかと思いましたヨ」
無理に笑おうとして微かに口角が引きつっている。
「なんでこれからが一番楽しいときに退場しよると」
「親の命令ですからネ、だぁれも相談してくれずに突然活動休止ーって」
「誰も?」
「うちの親も向井サンも部長もだーれも言ってくれなかったんですヨ?酷いですよネー」
いつもと変わらないどこかおどけたその口ぶりは真意を感じることが難しい。
だから果たしてその相談なしで、というのが親心であったのか急すぎて余裕がなかったのかもはかり知ることは出来ない。
じわりと目から涙がにじむ。
日が暮れて空がオレンジ色に染まっていくのが、滲んだ目から見えた。
「まあもしかしたらシーウェイブスさんやファインティングブルズくんとこみたいにクラブチームって可能性もありますシ、まだ泣くには早いですヨ?」
「そげなこと、言うな」
ぐりぐりと目元を拭いてその赤い目を見る。
何かを諦めたような赤い眼差しが今だけはひどく、憎たらしい。
「それにもしもの事があっても、ブルースや先輩やナナがワタシの事覚えておいてくれるでしょウ?
ワタシの道を行き切った男として、ネ?」
夕日の向こうから船の汽笛が聞こえた。
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ブルースとレッドスパークス。
廃部報道でまだ情緒が落ち着かない。