ふらっとやってきた相手の顔に思わずため息が漏れる。
「自分ちほっといてこげなとこきていいんか」
「たまたま休み出来たし、海南も忙しいみたいだから」
和歌山は小さなビニール袋を片手に玄関前にいた。
「……なら、ええっちゃ」
入れと告げるとお邪魔しますとやってくる。
「来よるなら先に言ゃあええやろが」
「あー、まあ気分だから。今朝とれたての蜜柑とチョコレート、お土産ね」
出てきたのはつやつやとしたみかんが4つと、小さなプラスチックの容器。
生チョコわらび餅と書かれた容器の中には小さな茶色いものが5つほどコロンと入っている。
蜜柑はともかく大して甘いものが好きな訳ではない自分になんでチョコレートなのか、と微かにため息が漏れた。
「蜜柑はええが、なしてチョコなんっちゃ」
「ほら、きょうバレンタインだから」
「ああ……」
言われてみればそうだったことを思い出す。
「コーヒーでも淹れちゃる」
「いや大丈夫、ただ小倉さんの顔見に来ただけやから」
「……そうか」
「あ、でも俺焼きカレー食いたい。さいきんテレビでよく見るし」
にっこりとほほ笑みながら焼きカレーを奢れと強請って来る和歌山に、やれやれという気持ちを込めながら「後でな」と返すしか出来ないのだった。
小倉和歌山師弟のバレンタイン。
たぶん和歌山は海南の次ぐらいに小倉が好きだと思うし、小倉も和歌山のこと結構好きだと思う。