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コーギーとお昼寝

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団子を食う話

毎年のこととはいえ、神々の集会の季節である神無月はわりあい暇だ。
自分のような下位の神様は縁結びの集会に呼ばれるのは2~3日程度であるし、それ以外は各地の神々と交流を持ちながら奥出雲にある鉄の神々がまつられる社のなかでダラダラと過ごすのが通例であった。
(まったく、早く帰りたいもんですねえ)
暇潰しにと持ち込んだ大量の文庫本も月の終わりごろになれば大方読み終えてしまうし、出雲へと持ち込まれた仕事を片付けるのは戸畑がひとりでやってしまうのでやることがない。かといって小倉や此花のように日がな一日酒を飲んでるのも好きじゃない。
「八幡、ちょっとええか」
ひょっこりと顔を出してきたのは釜石だった。
ここにいる間着用を義務付けられている狩衣をたすき掛けしていったい何をしていたのか。
「はい?」
「ちと御厨(※台所)まで来てくれ」
本の帯をしおり代わりに挟み込んで御厨に足を延ばすと、御厨の方から出ていく鹿島や加古川がバタバタとすれ違ったときにふわりと小豆や砂糖の甘い匂いがした。
「菓子でも作ったんですか」
「ああ、悪いんだがちょっくらおおやしろ(※出雲大社)まで届けに行ってきてくれんか」
「おおやしろまで?なんでですか?」
「知らん、ただ作って持ってこいとしか言われとらんしな。ま、おおかた出雲や伊勢におわす神様連中の気まぐれじゃろ」
この時期はいつもの事とは言えどもなあと呟きながら、水きりした団子を木箱に詰めていく。
「……本社のお偉い人間より出雲や伊勢の神様の方が勝手ですよね」
「本当にな」
木箱に詰められた団子を風呂敷いっぱいに包んで、おおやしろへと持って行くことにした。

***
おおやしろの辺りはいつも人間も神々も入り交って賑やかではあるが今日はいっそう賑やかなようであった。
しかし神格のある神々は祇園のお化けの日(※祇園の節分行事の一つで舞妓さんが仮装して祇園の街を歩き回る)のように、本来の装いとは異なるものを着用しているのが分かった。
しかしどう見ても洋風の装いなのが……と思ってふと気づく。
「きょうハロウィンでしたね」
西洋由来の祭りごとではあるが楽しけりゃなんでも取り入れるお国柄は上位神も同様であり、要はこの団子はハロウィンのお菓子という事なのだろう。十五夜辺りと混ざっている気もするが。
出雲の縁結びの仕事も終わったので最後にパーッと遊んでから帰ろうという事なのだろう意図は薄々読めたが適当過ぎるだろう。
とりあえず団子を顔見知りの眷属に預けてさっさと奥出雲の社に引き返すことにしよう。
***

奥出雲の社に戻るともう既に辺りが夜の闇に包まれていた。
御厨で夕飯を拵えていた釜石は私を見て「おう、お疲れさん」と返してくる。
「何作ってるんです?」
「余った団子や小豆で果報団子を作ったんでお前さんの分が冷めないように保温しとった」
何てことない顔で大きめのお椀に小豆と団子の汁を注いで渡してくる優しさが暖かい。
「釜石はもう食べたんですか?」
「ああ、他の連中はもう食って酒盛りおっぱじめとる」
「酒盛り好きですよねえ」
「まあ大抵の奴は酒好きじゃからなあ」
塩味の小豆汁と団子を咀嚼しながら、旨いか?と笑う釜石に小さく頷いた。



八幡と釜石のある出雲の一日

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