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コーギーとお昼寝

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着物のはなし

・此花と振袖
「その歳で振袖には無理がない?」
淡い黄色に紅葉柄の振袖と同系色の羽織ものを着た私に神戸が心配そうに私に問うがそんなことを言われても困る。
パーティードレスなどという品のいいものを持ち合わせていない以上、こういう場に着ていくものが振袖ぐらいしかないのは面倒だと思うが買うのも面倒でそのままになっている。
「未婚女性の礼装だから別に良いだろ」
「でもいい年した女性が振袖なのはどう見ても行き遅れにしか見えないわね」
「それを言ったらそっちも同じだろ」
「ドレス買いなさいよ、私が見立ててあげましょうか?」
「神戸の趣味だと華やか過ぎることになりそうだから遠慮しとくよ」

・釜石と単衣
「もうぼちぼち単衣も終わりだなあ」
肌寒い季節になり、秋から夏の間に愛用していた着物を無地のたとう紙にくるんで収納する季節になった。
夏に着る青みの強い着物から、秋冬用の紺に近い色の着物へと模様替えするのもまた一つの季節の変わりを象徴する出来事になる。
もう少ししたら冬の盛りに着る長羽織やコートも出すことになるだろう。雪の季節も近い。

・東京と浴衣
江戸小紋の白い浴衣に博多帯をキュッと締めて脱衣所を出ると、君津が珍しそうにこっちを見た。
「東京が浴衣着てるの初めて見た」
「うちで寝るときは浴衣なんだよ、君津の家には浴衣置いてないからそっち泊まる時はジャージなだけ」
「俺が着付けそんな得意じゃないから置いてないだけで、東京の分の着替えとして持ち込むなら別に置いとくぞ?」
「仮にも神様の身分で着付けが苦手ってのはどうかと思うけどね」
前に買ってやった着物もたまにしか着ていないようだし、今どきの若い奴はという気持ちもなくはない。
しかし君津は兄弟分というひいき目を抜きにしてもいい男なのだ、いつも隣に飛びぬけて顔のいい鹿島がいるから目立たないだけで。
「それに、お前カッコいいんだから着物着れば若い子にキャーキャー言われんじゃない?」
「別にキャーキャー言われたくて着る訳じゃないんだけどな。まあいいや、風呂入って来る」
「お前今晩浴衣な」
ちょうど箪笥に君津に似合いそうだと思って仕立てておいた浴衣が一枚あることを思い出して腰を上げれば、えーという風に顔をしかめるのだった。

・西宮の着物
私が今よりも少し幼い時分はまだ庶民の服と言えば着物が主流で、私も葺合も仕事でないときは着物で過ごしていた。
葺合は女の着物の事なんてさっぱり分からないので、此花や神戸に頼んでいつも私に似合う着物を選んでは着せてくれたことを思い出す。
「それがこの古い着物たちなんだけど、捨てるにも惜しいしもう私の体に合わないからどうしようかと思って」
水島と福山にそう愚痴を漏らすと、福山が「私が作り変えましょうか?」と声をあげる。
「作り変える?」
「鞄とか巾着とかにしたらこれ、すっごく可愛いですよ」
「そうかしら」
「ええ。水島の洋服に作り変えてもいいし西宮さんの小銭入れとか、きっと可愛いですよ」
福山がそんな風に語るので、それも悪くないかしらと思って着物を二人に預けることにした。
数か月後、私の幼い頃の着物は水島の和柄シャツや私の巾着袋になった。

・鹿島くんは和装をしない
海南から貰ったまま、まだ一度も封を開けていないものがある。
「この着物ほんとどうしようかなあ」
衣替えとなるといつも目につくたとう紙にはあと小さなため息が漏れる。
俺ぐらいの年代だともう着物なんてほとんど着ないから貰った着物を持て余し、どうしようかと悩んでしまう。
かといってそのまま捨てるわけにもいかず、虫よけの樟脳の匂いが濃くなるばかりだ。
「………いつか、着る機会あると良いんだけど」
そう呟きながら今日も俺は着物をしまい込むのだった。




製鉄所組と着物のお話

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