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コーギーとお昼寝

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太平洋の向こう側で

(なんだってこんな時に限って仕事なんでしょうねえ?!)
クリスマスの気配の漂うアメリカ・ワシントンの街角で、日本はもう12月1日になったことに気づいてチッと舌打ちが出る。
「何か悪い事でも言われました?」
困ったようにそばかす顔の白人青年が問いかけてくる。
未来の部下になる予定の存在は先ほどの交渉のせいで不機嫌なのだと勘違いしたらしい。
「……すいませんね。モンバレー」
「いえ」
12月1日。その日は日本では鉄の記念日であり、私にとって最も大事な人の生まれた日だった。
可能な限り空けてきたその日に限ってずらせない予定のが入って渡米というのが妙に腹立たしい。
「そちらのボスは年内に終わらせる、というお考えでしたよね」
「ええ。というよりトランプが就任したら本当に無理になる気がしてなりませんしね」
「ですねえ」
対中強硬派を掲げる政治家から見てうちが『宝山を育てた親中企業』と思われてるせいでここまで進まないというのが腹立たしい。
予想以上に進まない事へのいら立ちも、今日という日に限って大事な存在の側に居られない事も、今日は何もかもに妙にいら立ってしょうがない。
「……駄目だ、ちょっと冷静になってきます。10分ぐらいで戻るので適当に時間潰しててください」
チップ代わりに小銭を渡して喫煙所に飛び込むと、馴染みのたばこに火をつけてその煙の味をじんわりと身体に染み込ませると少しだけイラつきが落ち着いた。
どうもアメリカに居る時はたばこの本数が増えてしまうが、たばこは日米ともにすっかり高級品となった。
なので手持ちの本数を確認しながらちびちび吞むしかなくなるのが寂しいところで、本数を確認しなおせばもう2本しかない。
「……頼み少なやタバコが二本って、どこぞの軍歌じゃあるまいし」
この一本で終わりにしようと残りのたばこを鞄の奥にしまい込みながらぼうっと冬の空を見上げてみる。
今頃釜石は温い布団の中で夢見心地だろう。今電話を掛けたら『こんな夜更けにどうした?』なんて言いながら愚痴を聞いてくれるだろうか?
けれどここで釜石の声なんか聞いたら飛んで帰って甘やかされたいと脱走したくなるのは確実、そんなことしたらうちの関係者はもちろんUSスチール側の人間にも色々言われるのは間違いない。
「帰ったら釜石のところ行きますかね」
スマホを取り出して『帰国したら釜石のとこに行きますのでよろしく』と数人にメッセージを送ると、戸畑から返事が来る。
『そうだろうと思ってました』
(……戸畑は私の事なんだと思ってるんですかね?)
言いたいことはあるが了承は得たのでもう何も言うまい。
もちろん釜石にも同様のメッセージを送ったが、まだ既読すらついてない。
でも本人が起きてメッセージを確認したらたぶん『しょうがないな、メシ2人分作っといてやるからちゃんと仕事はこなせよ』なんて返してくれるはずだ。
面倒ごとだらけな時でも帰れば釜石がいてくれて、戸畑の支えがあって、なんだかんだやれているのだろう。
タバコの火を消して灰皿へと放り込めば、気持ちは少し凪いでいた。


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八幡の一人語り。
今年の鉄の記念日ネタはちょっと毛色を変えてみようと思って考えてたらこうなった。

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