最後の荷物を段ボールに詰めながら僕はひどく寂しい気持ちになる。
2020年3月31日、きょうは日鉄日新製鋼の最後の日だ。
コロナだ五輪だと騒がしい世間をよそにこのところ僕の頭の中を占めていたのはそのことばっかりだった。
「周南、そろそろ寝ませんか」
「呉……」
どこか案じるように僕を見る紫の眼差しを見ると、苦しくなる。
この碧い海を探す冒険が終わることを。みんなで未来を切り開いてきた日々が終わってしまう。
泣き崩れそうなほどに、それが苦しかった。
「呉、」
「はい」
「……愛してる」
僕の口から洩れたのはただその一言。
吐き出すような愛の言葉を彼は静かに受け止めて、「俺もですよ」と呟いた。
周南と呉。