「やる事なくて暇だから呑もう」
退屈を持て余した府中の後輩の第一声はそれだった。
その手には焼きたての焼き鳥と缶ビールの箱がぶら下がっていて、ああコイツマジで暇持て余してるんだなあ……と察してしまう。
「いいけど月曜から呑んでいいの?」
「時差出勤で仕事開始遅めにしてるから平気」
そう言って早速人んちに上がり込むと我が物顔で冷蔵庫を開けて冷えたグラスを引っぱり出して早速ビールを注ぎ始める。
冷えたグラスを常備してる俺も大概どうなんだとか言わないで欲しい。
「別にいいけど……あ、アド街見た?」
「見たけどNECが出た瞬間にグリーンロケッツさんから鬼電来たから電源落とした」
「俺のとこにも来たわ」
ふわふわ泡のビールに口をつけると、少し気分が晴れた。
サンゴリアスにもビールを持って来たビールを注いでやると「注ぐのヘタだなあ」と呟いてくる。
「どーせ俺はお前みたいなプロじゃないからな」
「そっか、じゃあしょうがないね。あ、今度呑むとき神泡サーバー持ってこようか?新しい奴!」
こいつの他人の地雷を踏み抜くところはある意味天才的だと思う。
しかし秒で反省の意と対策出してくるお陰で嫌悪感までは抱かせないあたり性格は悪くないんだよな……。
「またサーバー出すのかよ!」
「今年のはお手入れいらずで専用ホルダーもつくんだよ!去年の奴すぐ失くした先輩でもなくさないように冷蔵庫に張り付くようになってんの!」
「そうか、うん、まあ気持ちだけ貰っとくわ……」
正直酒の味にこだわる方じゃないので神泡サーバーとか言われても困るのだが本人が楽しそうなので気にするまい。俺は後輩には優しくする主義なのだ。
(あ、この焼き鳥旨い)
新型コロナだの試合の延期だの嫌なことは多いけど、酒は俺を裏切らない。
「早くラグビーしてえなぁ……」
「ほんとにねー」
ブレイブルーパスとサンゴリアス。気づくと飲んだくれてる府中ダービー。