室蘭との待ち合わせ場所は東京の入り口で、ストロング缶のビールを飲みながらふうっと小さくため息を吐いた。
こっちはただでさえいい気分とは言い難いのに室蘭が遅れてくるのは余計気分が悪い。
バックレてしまおうかとすら思いながら空になったアルミ缶を足で潰そうと地面に置くと「広畑じゃん!」と声を上げた。
「水島」
「いやーごめんねー?5年ぶりの出場でうちがボコボコにしちゃってー」
ほろ酔い気味の水島の言葉が妙に癪に障るのでうちわでぺしぺしと頭を叩く。
「……まったく謝罪の色が見えないんだけど、あと5年ぶりじゃなくて8年ぶり。福山は?」
「選手たちの方に行っちゃった」
「ふうん」
柱に寄り掛かる水島が私もお酒ちょうだいというので渋々一本ビールを分けてやると「ありがと」と返してくる。
「200円ね」
「有料なの?」
「それぐらいはとる」
「じゃあ返す」
ビニール袋に押し込むようにビールを返すかわりに、無断でコーラを引っぱり出してそのまま栓を開ける。
コラという暇もなくぐびぐびと一気飲みして「はー!」と気持ちよさそうな声を上げた。
「コーラ代は?」
「んー……じゃあうちのブースで配ってたタオルあげる」
袋に入ったままの新品のタオルにはでかでかとJFEの文字があり、他社のタオルを受け取るのもどうかと思ったがあって困るものでもないし自宅用に使えばいいかと諦めて受け取った。
応援グッツの詰まったカバンに適当に押し込むと遠くから「おーい」と声がした。
室蘭は大きめのリュックを背負いながらバタバタと駆け込んできた。
「ごめんドームシティで迷子になってた!」
「あ、室蘭だ!相変わらずいい美少年ショタコンホイホイで……」
「水島も元気そうだね~野球部の調子いいの?」
「うん、野球部が調子よすぎて福山ちゃんが野球の事しか話さないんだよね~」
「まあそういう事もあるよ」
はははっと笑ってごまかすと「俺も飲み物欲しい」というのでビニール袋を渡すと、レモンチューハイの缶を選んで取り出した。
「お酒いいの?」
「バレなきゃいいの~」
室蘭は見た目こそ子供だが実年齢はとうの昔に100歳を超えていることを水島は忘れてるのだろうか。
「水島!お待たせ!」
遠くから福山が駆け寄ってくる。
ぺたんこの靴に野球のユニフォームと応援グッツの入ったカバン福山は本気の応援モードという風体で、ユニフォームのところどころにはサインが入っているのも見える。
「福山お帰りー!」
「待たせてごめんねーみんなと話すと楽しすぎて遅れちゃって~……あ、広畑さんと室蘭さんもお疲れ様です!」
完全についでではあったが福山に軽く頭を下げられると、ひさしぶりと俺と室蘭も鷹揚に返した。
「室蘭さんこれから試合ですか?」
「うん、福山と水島も楽しんだでしょう?」
「はい!今日はすごくいい試合で!一回には先制出来まし「福山ビール飲む?」
試合のことを口走らせないためにビールを押し付けると福山はハッとした顔をして「……いただきます」と受け取った。
「せっかくだし乾杯してから別れる?」
「乾杯?」
「どこにですか?
「この素晴らしき社会人野球の季節に!」
室蘭が持っていたお酒を掲げると、俺たちは小さく缶を当てた。
「じゃあ、次は仕事でかな」
「そうですね」
それじゃあと水島と福山が腕を組んで帰っていくと「さーて、俺たちも行こっか」と室蘭が呟いた。
広畑と水島福山と室蘭。
今日の社会人野球がちょうどこの4人の集まる日程だったので。