梅雨に入ってから随分と日本列島は冷え込むようになり、この夏は冷夏になるという。
そんな冷夏のさなか、製造業界でちょっとしたパーティーが催されることになりそこに呼ばれることになった(本当は和歌山が行くべきなのだがめんどくさがって丸投げしてきたのだ)ので、急いで着物を引っぱり出して新幹線に飛び乗った。
待ち合わせは東京駅の新幹線ホーム。八幡が車を手配してくれたから傘は要らない。
紫陽花の着物に薄手のストールも巻いた私に八幡は「馬子にも衣裳ですねえ」と呟いた。
「なにが馬子にも衣裳だ」
ぶつくさ言いながら小走りでタクシーの方を目指す。
「だってそれ、京友禅でしょう?あなたに友禅なんてイメージないじゃないですか」
「住友御三家としてこれぐらい普通だよ」
八幡とて着ているもののは決して悪くはない。内輪のパーティーに合わせてブラックスーツだ。
「……住友事件の時は散々ひどい目にあわされましたけどね」
「あれは日向の大旦那が正しいと今でも思ってるよ」
「ミスターカルテルの娘ですねえ、協調哲学のきの字もない」
「そう言うのは和歌山の領分だからね」
ぱたぱたと小走りで歩きながらお互いの文句はいくらでも出てくる。
まったく、和歌山もなんでこいつと仲良くやれるのか不思議でならない。
「パーティーって何時だっけ」
「15時に目白ですよ、忘れたんですか」
「和歌山に丸投げされてきただけだからな」
「無茶苦茶ですよねあなたたち」
「和歌山が実務・対外があたしみたいなところあるからな。そっちだって実務は全部戸畑に丸投げだろうよ」
「実務もしてますよ」
「ほんとかよ」
ああだこうだ言っているうちに顔見知りの本社社員が手を振って誘導してくる。
タクシープールには風格ある社用車が扉を開けて待ってくれていて、そこに一緒に滑り込む。
「八幡さんと此花さんって喧嘩するほど仲がいい、の好例みたいな感じですよね。」
運転手を務める社員にそう言われるまであと5分。
此花と八幡。最近製鉄所組の更新をずっとサボってたので書きました。