*筑波高速度と京成さん。
「冬はお嫌いですか?」
まだ東京でも平気で毎年雪が降っていた、昭和のはじめごろのことだ。
「うーん・・・・嫌いかな?」
「わたしは好きなんです。筑波山が白く染まって、田畑も白くなるでしょう?」
あったかい緑茶とお茶菓子がコタツの上に並ぶ。
お茶は2つ、お茶菓子も4人分。
「でも寒いのはにゃー・・・・」
「寒さもまたおつなんです、白い筑波山は冬だけです。遠州駿河の富士のお山にこそかないませんが東日本では随一の名峰です。東武さんもほめてくださいましたから」
東武、の名前にぴくりと動きが止まる。
確かに筑波山を訪れたことはある、でも冬の筑波山は見たことが無い。
なのに東武は見たことがある。
「京成さん?」
なんか苛々する。
いま、彼女は京成本線の一部として存在している。
でももともとはひとつの投機会社で、歯車が違えば東武やほかの企業にいた可能性もある。
他人の空気を感じるだけでこんなにも息苦しくなる。
「ねえ、」
どうか俺だけが好きだといって。
おわり