朝起きて、カレンダーを見る。
「・・・・・・1月16日」
どこかで聞いたような日付けにうん?と首をかしげる。
(なんか凄く大切なことを忘れてるような?)
はて、自分は何を忘れてしまったんだろうか?
123回目の「おめでとう」と123回目の「ありがとう」今日は月曜日で、常磐がひたち野うしくで事故を起こしたこと以外は平常な一日だ。
ここ数日の空気の乾燥のせいかのどが少しイガイガする。
「水戸、今日はこのまま水戸駅に泊まりだよな?」
「あなたの事故のせいですけどね」
今日のは人身事故だから、書類を纏めるのに手伝わされるに決まっている。
なんせ私と違い東京まで行くことが許された幹線なのだ、忙しいからと書類だなんだを押し付けて東京の知り合いのところに遊びに行くんだろう。
カレンダーに丸までつけているのだ、どうせ色々押し付けるつもりなんだろう。
(・・・・・・・教育間違えたんですかね)
「確かに今日はちょっと俺が悪かった、かな?」
何かを誤魔化すように苦笑いしながらも反省の意を述べる。
いつもは開き直るくせに、今日は雪でも降るんだろうか。
「珍しいですね貴方が反省するのは、営団の彼に怒られたんですか?」
「なっ、千代田とは会ってねーぞ?!」
東京営団地下鉄千代田線(少し前に名称が変わったがどうも覚えられないのだ)は常磐のまあ旧友と言うか腐れ縁のようなもので、私は会ったことがないものの宇都宮線いわく『女だったら常磐が水戸に連れ去るぐらいほれ込んでいた』相手らしい。
「別に彼は関係ありませんよ。東京は東京、水戸は水戸です。カレンダーに丸なんかつけているものですからこの後東京に遊びに行くんでしょう?」
「・・・・・・違ぇし」
ふて腐れたように呟くのは幼少期と代わらないようで、頭をぐりぐりと撫でてやった。
* *
夜7時を過ぎ、水戸駅もだいぶ静かになってくる。
「水戸、おばんです」
「おや今日は郡山に一泊するんじゃ?」
「んな訳ねぇべー、早く行くべ」
「書類あと数行なのでそれが終わってからでいいですよね」
「んー・・・・・駄目」
ほらほらと水郡にしては強引に来いと言うので、書類をとじて誘われるがままに歩き始めた。
水戸の家
「おばんですー」
「水戸、遅ぇぞ?」
「貴方の押し付けた書類整理やってたんですよ、あと数行で終わるとこだったのに」
「水戸線」
「・・・・・・笠間さん、珍しいですね。水戸に居るのは」
「そりゃあ、協力願いてぇだなんて常磐が珍しく頼むからな」
「余計なこと言うなよ!」
この光景、前にも見た記憶がある。
確か3年前の今頃だった。
そうだ、思い出した。
「・・・・・・あ」
「笠間のせいで水戸にバレたじゃねーかよ!」
「俺のせいかよ」
「常磐、あなたもう少し頭ひねった方がいいですよ?3年前と同じじゃないですか」
「うるせぇ、今回は食い物のほうを凝らしたんだよ」
「はいはい」
123年前の1月16日、それは水戸鉄道の開通日だった。
そうそうたる人々が私の誕生を祝ってくれた記念すべき日であり、常磐線の基盤にもなりいまもこの街を走り続けていた。
「まあいいべ、中入んべな?」
水郡と笠間が先に室内へと戻っていく。
玄関にずっと居たせいか冷え切った指先が上手く動かない。
「水戸、」
「はい?」
「・・・・・・・・・123歳おめでとう」
「ええ、まさか150の大台に乗れそうな勢いになるとは思いませんでしたがね。これからはあんまり苦労かけないでくださいよ」
「左手、出せよ」
冷えた左手を差し出して、常磐が青い石の指輪を押し込む。
「なんですかこれは」
「将来水戸が金なくなったら支線にしてやる約束の指輪。・・・・・・・前なくしたっ言ってたろ」
そういえば、まだ目の前の彼が小さかった頃そんな約束をしたかもしれない。
できればそんなことはお断りしたいのだが。
「本気なんですねぇ」
「・・・・・・・・・100年前から本気だっつーの」
「そうですか」
あいにく、私にはまだこの名前に執着があるから。