「鹿島線」
「潮来さん、お久しぶりです」
「今年もきれいに咲いたでしょう」
潮来が持ってきた一輪のあやめは一輪挿しに活けられ、休憩室の壁に飾られる。
ここ数日は毎年ながら東京からの特急列車の応対が忙しくて、ろくに花を見ていない。
「はい」
「千葉支社の方にお体を労わるようにと言って置いてください、あなたも」
いつも潮来さんは優しい。
優しい空気を放ちながらぼくらにも気を配る。
行政そのものである潮来さん自身の空気が町の空気にも影響し、結果としてこの季節に一時的に出される特急あやめ号は大盛況なわけだ。
「ああ、・・・・・・北鹿島に伝言をお願いしてもらえませんか」
「はい?」
「ぼくのことは心配しなくていいから、と。」
濃い千葉支社の面子に囲まれるぼくを気遣う兄への伝言を託す。
まあ兄には血の繋がらない兄が―鹿島臨海さんが―いるからいいのだろうけど。
「相変わらずお兄さんがお好きですねぇ」
「そりゃあ、ぼくと血を分けた兄ですから」
軽い一礼をしてぼくは部屋を出た。
後5分、もうすぐ来る総武さんの乗ったあやめ号へと向かった。