福井はいつも年代物の白い傘を使っている。
年代物だというのに汚れの薄いそれは薄曇りの街ではよく目立った。
「まだあの白い傘使ってるんだ」
「気に入ってるのよ」
福井はふふっと汚れなき笑みをこぼして言う。
その傘は結城さんが買ってあげたものであることを俺は知っている。
ぱっと傘を開いて玄関を出る彼女を追いかけて俺もビニール傘を開いて後ろについていく。
街は冷たい冬の雨に打たれ、泥と混ざった雪が道路をぐしゃぐしゃにしていて、ただでさえ薄曇りの空をさらに暗い色に染め上げている。
そのなかであってもあの白い傘は特別華やかに生えた。
「鯖江、」
「……そこ曲がるとこでしたっけ」
「こっちに新しいコンビニが出来たから、近道しようと思って」
細い路地裏に入ると、白い傘は砂漠に咲く花のように目立った。
(……果たして結城さんはそこまで考えて福井にこの傘をあげたのだろうか)
ぼんやりとその後ろを歩きながら考える、ある冬の夕暮れ。
鯖江と福井。