ある意味絶景だが、ある意味では微妙な心地だ。
雪に埋もれる秩父宮のグラウンドに思わずため息が漏れる。
ポケットに突っ込んであった携帯をとれば『サンゴリアスさん?』と声がかかる。
「サンウルフズ?」
『そうですよ、そちらの雪はどうですか』
別府で合宿中の狼の耳を持つ少年の姿を思い出す。
やはり彼もこの秩父宮の様子が心配だったのだろう、まあ彼もこの秩父宮をホームとするのだから当然と言えば当然か。
「壮観なまでの雪」
『でしょうね、この調子であと何度降るのか……』
「スーパーラグビーの開幕戦前にまたもう一度降るんじゃないか?」
『開幕戦当日に降られたら最悪ですけどね』
「フランビーズなら喜びそうな気もするけどなあ」
『芝の状態がこれ以上悪化されたら困るって意味ですけど』
「ああ……それとそちらの様子は?」
『つつがなく進んでますけど?』
「そりゃあ良かった」
それじゃあ失礼しますと言って切られた電話に溜息を吐く。
当初こそ扱いかねていたあの子供も今ではずいぶん馴染んだものだと思う。
トップリーグが終わって梅の香りが漂えばスーパーラグビーの季節、そして夏が来れば再び俺たちの季節だ。
(スーパーラグビー開幕戦もどうなるかね?)
雪解け水と混ざった雪を踏みしめながらそっとその場を立ち去る。
もう少しすれば、春が来る。
サンゴリアスとサンウルフズ。