例年、入れ替え戦後はシーズン終了を祝う飲み会が催されている。
元々試合後にはみんなが集って酒を飲むことが多く(これはラグビーのノーサイド精神に由来するものなのだが詳細の説明は省略する)そこから、今シーズンの振り返りと来シーズンの顔合わせなどを行う飲み会が例年優勝者の家で行われていた。
「去年に引き続き今年も俺の家で打ち上げ会ができることを心から歓迎します、とりあえず乾杯!」
全員が青いビールの缶を高々と掲げればそこからは無礼講である。
「サンゴリアス、二年連続で打ち上げ会場にされるのも一苦労だな」
「あと5回はうちで打ち上げ会やれるようにしないと」
ブラックラムズさんにそう返すと、スティーラーズさんも「言うたな?」と笑ってくる。
「まだシーウェイブスの記録をお前に破らせたくはないな」
「俺の記録、じゃないんですね」
「先にV7を打ち立てたんはあいつやからな」
スティーラーズさんが自分ではなく今は二部リーグに籍を置く彼の名前を挙げたことに意外性を感じてしまう。
確かに80年代の日本ラグビーを知る身としては彼の打ち立てた7連覇への憧憬はあるが、同じように7連覇を成し遂げたスティーラーズは謙遜する必要がないのに敢えてそれをシーウェイブズの記録と呼んだのは先に大記録を打ち立てた相手への敬意なのかもしれなかった。
「スティーラーズがシーウェイブズを拗らせているのは今に始まったことではないがな」
「中二病の羊に言われたないですー」
「喧嘩ならいくらでも買うぞ?」
「おうおう俺もいくらでも売ったんで?」
「ラムズさぁん」
口喧嘩一歩手前のスティーラーズとブラックラムズに口を挟んだのはイーグルスだった。
どういう訳か上半身裸で、普段は滅多に見せることのない純白の鷲の翼まで出している。
「……酔ってるな?」
「まだひとかんだけだからよってませんよ?」
そうは言うものの顔はずいぶん真っ赤だ。
そう言えばイーグルスは下戸であり、東京組(サンゴリアス・ブレイブルーパス・イーグルス・ブラックラムズ)で飲むときも酒を飲ませると一番最初に酔い潰れるのはイーグルスだった。
しかしイーグルスはあまり酒を好まないし飲ませて最初に潰れるのも面倒なのでオレンジジュースを置いておいたはずである。
「飲んだんだな?」
「のみかいだからぶれいこうですよぅ、ぶるーすくんのびーるとこうかんしてもらったんです」
なるほどそう言うことか。
「……なあ、サンゴリアス。イーグルスってあんな酒に弱いんか」
「東京連中で飲むと一番最初に潰れるのがあいつですね」
「酒神の血ぃひいてるお前と肝臓だけロシア人のブレイブルーパスと比較するのは酷やろ」
「それを抜きにしてもビール一杯でほろ酔いになれるのはイーグルスぐらいでしょ、後のことは任せます」
「え、ちょっ」
酔っ払いの相手を二人の先輩に丸投げして他に目をやれば、ブルースとレッドハリケーンズが涙のお別れ会をしていた。
「こうやってブルースと次飲めるんはいつやろうなあ……」
「早よ戻ればよか」
「せやけど、俺とライナーズ先輩居らんかったらスティーラーズ先輩が関西ぼっちになるやん?」
「うちの先輩も一人やっちゃけど元気にやっとるばい」
同い年のちびっ子コンビのなんだか切ない会話はスルーしておこう。あとたぶんスティーラーズさんなら関西ぼっちでも平気だと思う。
トップリーグに戻ってきたホンダヒートはグリーンロケッツさんとかシャイニングアークスさん辺りを巻き込んでさっそくぎゃあぎゃあやり始めてる。というかスピアーズさんなんで黒田節とか歌っちゃってんだ。槍繋がりか。
新たにトップリーグに加入するレッドドルフィンズはトヨタ双子に挟まれて雑談中。
ライナーズさんとジュビロという不思議な組み合わせの2人はサッカー談義中のようだ。
特にだれもハブられることなくみんなわいわいとしている。
(……ま、飲み会としちゃあ成功だよなあ)
とりあえず酒を時々追加し、捨てられた空き缶やごみも随時回収して周囲にざっと目を配りながら1缶目のビールを綺麗に飲み干した。
「サンゴリアス、」
声をかけていたのは隅にいたワイルドナイツだった。
空っぽになったビール缶を俺の方に突きだすと「二杯目のおすすめってある?ビール以外で」と訊ねてくる。
「ウィスキー樽で熟成された梅酒は?」
「じゃあそれで、あと、」
にっと微かに口角を上げてタブレットPCを取り出すと、そこには今シーズンの試合の実況映像が流れている。
「酒飲みながら一緒に今期の試合分析しよう」
それがどんな誘いよりも魅力的に響くのは、やはり俺がどうしようもなくラグビー馬鹿だからなんだろう。
「俺で良ければ」
シーズンがついに終わったのでみんなの話。