「シーウェイブス、ちょっといいか?」
ふらりと釜石さんがやってきて渡してきたのが一枚のメモだった。
「もしかしたらもう話を聞いたかもしれないが、新日鉄住金の全社大会に来てくれないかって」
「ああ……組み合わせ決まったんですか?」
「おう。鞘ヶ谷との交流試合だ」
「え」
思わず上ずったような声が漏れる。
鞘ヶ谷―新日鉄住金八幡ラグビー部―は、かつて自分が追いかけて来た背中そのものである。
今でこそ主戦場が異なるがやはりその名前は少しだけ特別な音として響いた。
「今年で鞘ヶ谷が90になるからそのお祝いも兼ねてのことらしい、お前さん昔あいつに憧れてたろう?」
「……60年代ラグビーを見てた側からすれば憧れない方が無理でしょう」
「まあお前さんの言い分は分からんでもないな、神戸も似たようなこと言ってたしな」
年季の入ったラグビーマニアの同業他社の名前を挙げてそう答える。
「楽しみか?」
自分の追い掛けた背中をついに追い越したときの感慨はよく覚えている。
生まれたてのまだ人の身も与えられていなかった自分にとってあの背中は特別だった。何よりも超えたい存在だった。
「初恋の人と会う心地がする」
「……さすがに初恋の人は言い過ぎじゃないか?」
「いえ、これ以外にいい言葉が出てこないんです」
九州の空はどんな色だろう。
数年ぶりに出会う彼らはどんな風になっただろう。
鞘ヶ谷、あなたはこの交流試合を楽しんでくれるだろうか?
かつて追い掛けていた人は今どんな風にこの世界を走るのだろう?
過去のあなたしか知らないと俺と、過去の俺しか知らないだろうあなたは今の俺とどういう風に戦ってくれるのか、こんなにもわくわくすることはない!
シーウェイブスと釜石。
全社大会交流戦、某サイトでネット中継されねえかな……