「とりあえず頼まれたのはこれだけだな」
「助かります、」
小浜さんに手渡されたスチロール箱の中身を確認して、ありがたく受け取る。
わざわざ木の芽峠を越えてここまで来てもらっているのは結構助かっているのだ。
「あと、これお礼のヤマメとオイカワです」
「今年は川魚か、ありがとうな」
「いつも届けてもらって助かってますから」
小浜さんは元来京都への出入りが多く、わざわざここへ来るという事はあまりない。
ただ、この夏の時期になるとどうしてもお願いしまう。
「でも、なんで半夏生なのにタコじゃなくて鯖なんだ?」
スチロール箱には今朝小浜の港で水揚げされたばかりの鯖がぎっしり詰まっている。
コンロに魚の焼き網を置いて、塩を軽く振った鯖を焼いていく。
「うちの方は江戸の頃からこの時期になると鯖を食べるんですよ」
「ところ変われば品変わるってことかなあ」
小浜が興味深げにそう呟く。
「そういう事です」
「ま、ヤマメありがたく頂いてくわ。鯖が欲しくなったらいつでも言ってくれていいからなー」
ヤマメの入った袋を握り締めて小浜さんがまたフラリと出ていく。
(……勝山ももうすぐ来るかなあ)
半夏水が降らないことを願いつつ、もう一人の客人を待っている。