昼下がりのマンションの一室にぴんぽん、とチャイムが鳴る。
「おう、ひたちなか。どうしたんだぜ?」
「そちらの町役場に少し用事があったんで、そのついでに顔見ようと思ったら今日は休みだと」
「ああ……」
まあ入ってくれとひたちなかを部屋に入れる。
クーラーの効いた部屋に、窓の向こう側には大洗の海。
「いつも思うんですけど、イメージと違いますよね」
「よく言われるからもう慣れたぜ?」
ガラスポットの麦茶とグラスを渡すと、さっそく麦茶を飲み始める。
ついでに自分の分も飲み始める。
「もう7月かあ」
「1年って早いですよねえ」
「艦艇見学会にひぬまマラソン、八朔祭りに花火にって追われてるうちに夏なんてすぐに終わっちまうんだぜ……」
思わずこの先の予定にため息が漏れる。
夏の大洗は1年で一番の稼ぎ時だからあまり遊ぶ余裕もない。嬉しい悲鳴という奴だ。
「寂しいとでも?」
「いや、稼ぎ時ってのは大変だなってだけなんだぜ」
「……那珂湊も、そうでしたか」
「実の親に他人行儀な呼び方だぜ」
「顔も知りませんからね」
「伝統とはいえ淋しいもんだぜ」
「で、質問の答えは?」
「そっちか。那珂湊の夏も忙しかったと思うんだぜ。東京から俺や那珂湊行きの特急も昔はあったからこの辺りに不慣れな客の対応があったりしてな」
遠くに去った記憶は不思議と色あせることなく鮮やかに残っているもので、思い出話がつらつらと口をついた。
ひたちなかは麦茶を片手にその思い出話を黙って聞いていた。
ひたちなかと大洗。