日に日に春の近づく気配がする。
ぽかぽかとした温かな日差し、遠くから香る梅の花のにおい、雪解け水がたてる水音。
「福井さん、すいません」
「南越前が気にする事じゃないから、気にしないで」
若々しい少女がひょこりと顔を出してくる。南越前町だ。
県庁所在地は伝統的に市と県の仕事を兼任しているので、どうしても県庁まで行く余裕がない時は県の仕事を市役所まで持ってきてもらうことも時折ある(まあ元々閑職なので滅多にある事ではないが)
南越前が持ち込んだ書類にざっと目を通して、内容を大判の手帳に書き込んでおく。
「わざわざ市役所までありがとう」
「いえ。あと、ついでなんですけど」
鞄から出てきたのは新聞紙にくるまれた1輪のラッパ水仙だ。
「ちょうど庭に咲いてたんでお裾分けです」
「越前や池田には渡したの?」
「週末に丹南勢で一緒にご飯食べる約束してるんで平気です」
「そう、じゃあ後ろの引き出しに一輪挿しがあるから飾っておいてくれる?」
「はーい」
いい笑顔でそう答えたのちに残った書類に目を通す。
年度末の多忙さと書類の山の隙間に、黄色い水仙が花咲いていた。
南越前ちゃんと福井ちゃん。もうすぐ春ですね。