美味しいものには心を満たす魔法がかかっている。だから、悲しいことがあった時こそ美味しいものを食べる。
暇な時に作って冷凍していた餃子とから揚げはフライパンで揚げ焼きに。
大ぶりのカラフェに水洗いしたイチゴ、ざく切りの皮つき林檎、ざくざくと切ったみかんと安くなっていたレモン、シナモンパウダーやクローブと八角を少量、そして最後赤ワインをありったけ。
そしてカラフェの果物を取り分け用の大きいスプーンで軽くつぶして混ぜればサングリアだ。
いや、本来サングリアにスパイスは入れないんだけどから揚げとかに合わせるには少しそっち系の風味が欲しかったのだ。
果実の酸味とスパイスの風味が混ざり合って出来はまあ悪くない。配合なんかはもう少し考えたほうがいいだろう。
からりと上がった唐揚げは熱々をそのままいってしまう。
「あち」
冷たいサングリアでスパイシーな唐揚げを流し込めば、さっぱりして美味しく呑める。
LINEで『大丈夫ですか?』とサンデルフィスから連絡が来た。
『俺は平気、感染対策はしっかりな』
仕事終わりに俺の試合の中止が分かって心配してくれたのだろう。可愛いいとこだ。
そう、俺の開幕戦は中止になった。ヴェルブリッツさんのとこで感染者が出たためだ。
揚げたてのから揚げをやけどしないように気を付けながら口に放り込めば、油のうま味とスパイスの風味。
感染対策のため一年近く食の喜怒哀楽を誰とも分かち合えない日々が続いていて、それを耐え抜いてきたのにこのザマだ。
「……別に誰のせいでもないんだけどな」
このしんどさはみんな同じはずだ。だけどやっぱり悲しいものは悲しい。
自分に言い聞かせながら揚げ餃子をザクリと歯で割れば、ニラやにんにくのエネルギッシュな風味。
行儀も何も忘れて黙々と台所で飲む一人酒の沈黙は悲しいけれど、出来上がった料理のおいしさだけはやっぱり優しいのだ。
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サンゴリアスの話