人生には往々にして事態がマイナスに動くこともある。
けれどもそれはそれとして諦めて生きていかなくちゃいけないし、それなりの折り合いの付け方も必要なのだ。
「……さてと」
印刷し終わった新しい試合の日程表をカバンに詰めて、ホワイトボードに『関係各所へのあいさつ回りのため4時ごろまで不在』と書き込んでおく。
私物の大型バイクにスマホを取り付け、ナビアプリに予定のルートを入れていく。
近隣の小売店や宣伝用施設、応援してくれてる地元のお店を回りながら浜松方面へ。
親戚の所にも新しい日程や応援のあいさつもして、11時頃には浜名湖近くの舘山寺温泉で昼休み。
午後は浜名湖を散歩したり、少しのんびりして3時ぐらいに出れば余裕で間に合う。
(こういうのをサボりって言うんだろうけど、たまにはやらなきゃやってらんないよなあ)
バイクの調子を確認しながら開幕延期に落ち込む心の奥のもう一人の自分をなだめてみる。
ヘルメットをかぶり、手袋をつけ、リュックをしっかり止めてエンジンの鍵を刺す。
大型バイクにまたがって走り出せば冬の冷たい風が吹きつけてくる。
荒馬のような自社製の大型バイクは僕の動きにだけはぴったり寄り添ってくれる。
バイクは西へ、ちょっと寂しい心をなだめながら走り出す。
***
12時過ぎ、舘山寺温泉に到着。
ちょっと話し込んだりしたせいで予定より遅くなったけれど誤差の範囲内だ。
ぶらりと入ったうなぎ屋さんでは、浜名湖のよく見える席に通してもらえた。
「うな重並とうまき1つお願いします」
ホカホカのお手拭きで手を拭いながら冬晴れの浜名湖が綺麗だ。
いつもなら見ることのないこの季節の浜名湖をのんびり見れるのは嬉しいような、寂しいような。
試合の隙間時間に海外の試合や過去の試合を見たり練習メニューについて改めて考え直したりしてみたけれど、やっぱり試合がしたいという気持ちは募っていく。
(今年があの人最後だもんなあ)
全部流行り病のせいだけれどせめて最後の試合ぐらいはちゃんとさせてあげたい。
延期された試合だって本当に開幕するのかも分からない。
ラグビーの失われた日常がじわじわと自分をおかしくさせていくみたいな、この感覚が怖くてたまらない。
もちろんいつかこの状況は終わる。けれどこの異常事態が終わる前に、休部-それは事実上死ぬという事だ-となれば?
遠くからうなぎの香りとともにお店の人の気配がする。
「お待たせしました、お先にうな重です。う巻きは現在焼いていますのでもう少しお待ちください」
「ありがとうございます」
うなぎの甘辛い匂いとごはんの匂いは幸せだ。
いただきます、と小さく呟いてたれの染み込んだごはんを思いきり口に放り込む。
甘辛いたれと炊き立てごはんの甘さがほっこりと気持ちを明るくさせる。
ほんと、美味しいものの前に人はあらがえない。
「……そうだ、デザート買って帰ろ」
今日だけは思う存分好きなことをしよう。
不安な未来を正しく怖れるためには、きっとこういう事も大事だろうから。
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ジュビロ弟のサボり。
ゆるキャン△見てたら浜松行きたくてしょうがない。