「またええケーキ買うてきましたね、記念日でもないのに」
小皿に乗せられたのは艶やかな春苺の乗った苺のモンブラン。
ケーキに刺さった小さなカードには北野にある人気のケーキ屋の名前が記されており、いつもよりいいものを買って来たのだという事はすぐに察せられた。
「あら、記念日じゃないと高価なケーキを買っちゃいけないとでも言うの?」
「別にそういう訳やないですけど、こういう高いもんは加古川さんやいつもの女友達らと食うたほうがええと思いますけどね」
「加古川の分は残してあるわ、それに今日は『何でもない日おめでとう』って気分だったのよ」
「……ほんならいいですけど」
マグカップになみなみと注がれた温かな紅茶は、いつもよりも心なしかいい香りがする。
(いつもよりええ茶葉開けたのか、ちゃんと水買うて淹れたのか……まあええか)
一口飲み込んだブラックティーのほのかな苦みと香りでケーキの甘さを静かに味わっていると、ふいに口を開いた。
「つくづく思うけど、生きてるからこそこういうお茶も飲めるのよね」
「そうですねえ」
「排球団や野球部が生まれた日もめでたかったけれど、生まれて苦しみながらも生き延びて迎えた今日もきっと同じぐらいめでたいと思うの」
ふいに姐さんの口から零れた兄弟たちの名前に、一瞬手が止まる。
生きられなかった兄弟たちのことをその口から聞くのは久しぶりのことだった。
「……もし、私のためにあなたを死なせることがあったら私を恨んでね」
「たぶん恨めないと思いますけどね」
亡き後輩のことを思い出しながら、そんな台詞を漏らした。
「それでも、今日まで生き延びたことを祝った方がええんとちゃいます?」
神戸ネキとスティーラーズさん。